第662話 ツイテいるときは…?

 僕はゆっくりと打席に入った。

 岡山ハイパーズの先発は、新外国人の右腕、ギャレット投手だ。

 

 160km/h越えのストレートと、チェンジアップ、そしてスイーパーと呼ばれるボールを操る、とても厄介な投手だ。

 スイーパーとはスライダーの派生系のような変化球で、スライダーよりも横曲がりが大きい。

 特に右バッターにとっては遠くに逃げていくように見えて、打ちづらいことこの上ない。


 だから追い込まれる前に何とか勝負したい。

 そしてその思いが強すぎたのか、初球のストレートをライト側に打ち上げてしまった。

 完全に差し込まれた。

 あー、やっちまった

 僕は悔しさを押し殺しながら、一塁に向かって走った。


 ところがである。

 一塁を蹴って二塁に向かいながら、打球の行方を見ていると、フラフラと上がった打球はライト線上に飛び、何とファーストの後方、そしてライトの手前に落ちた。

 マジか…。

 最近は良い当たりが野手の正面をつくことも多く、不振と不運を囲っていたが、これはラッキーだ。

 ファーストオーバーツーベースヒットだ。


 そして2番は谷口だ。

 せっかく作ってやったチャンス。

 必ず僕をホームに返せよ。

 僕は二塁ベース上から、念を送った。


 すると谷口はボテボテのファーストゴロを打った。

 僕は三塁に進んだ。

 まあ最低限の仕事をしたということにしておいてやろう。 

 ありがたくおもゐたまゑ。

 僕は三塁ベース上でそんな事を思った。


 そして3番は湯川選手である。

 最低でも外野フライを打てよ。 

 すると浅いライトフライを打ち上げやがった。

 貴様、これではホームインできないだろう。

 後でヤキだな…。

 三塁ベースにそんな事を思っていると、後ろの三塁コーチャーから「GO」という声がした。

 マジかよ。

 僕は捕球したと同時にスタートを切った。


 もう破れかぶれだ。

 幾ら球界屈指のスピードスターとは言え、こんな浅いフライでホームインは難しい。

 しかもライトの石動選手は方は強い方だ。

 そして案の定、返球が来たのが横目に見えた。

 ほら、言わんこっちゃない。

 でも三塁コーチャーの指示に従ったたけであり、僕は悪くないもーん。


 ところが送球が一塁側に流れている。

 これはワンチャンあるかも。

 僕は楠捕手のタッチをかいくぐって、ホームに滑り込んだ。


 「セーフ」

 キャッチャーのタッチが空振りしたようだ。

 岡山ハイパーズベンチはリクエストすること思いきや、楠捕手が手をバツにしている。

 つまり楠捕手もこれはセーフと認めたということだ。

 ということで、幸運が重なり、札幌ホワイトベアーズは先制点を取った。


 そして僕の2打席目は3回表にやってきた。

 マウンドのギャレット投手は初回に一点を失ったものの、その後は立ち直り、ここまで5者連続三振を取っている。


 ツーアウトランナーなし。

 もちろんランナーには梨という選手も、成士という選手もいない。

 正真正銘、ランナーがいないということだ。


 無失点に抑えているとは言え、先発の須藤投手はここまで4安打を打たれており、調子は悪そうだ。

 1対0でリードしているとはいえ、どちらかというと岡山ハイパーズの方に流れがいっている。

 ここで僕まで三振に終わってしまっては、完全に相手ペースとなってしまう。

 何とか塁に出たいところだ。


 ところが初球のチェンジアップを見逃し、2球目のスイーパーに空振りして、簡単に追い込まれてしまった。

 次はストレートか。いやもう一球、スイーパーもありうるし、チェンジアップも可能性はある。

 でもここは一球外してくるかも…。

 そう考えていると、何とカーブがきた。

 僕は速い球への対応を意識していたので、完全に裏をかかれた。

 しかもストライクゾーンに決まりそうだ。


 僕は何とかバットの先に当てた。

 打球はコロコロと三塁線上に転がっている。

 これは面白いかも。

 僕は懸命に一塁に向かった。


 スコーン。

 ヘルメットに衝撃を受けた。痛…くはない。

 送球が逸れて、頭に当たったみたいだ。

 ボールはファールゾーンを転々としているのを見て、僕は2塁に向かった。

 僕は2塁ベース上で、スコアボードを確認した。

 記録はワンヒット、ワンエラーのようだ。これで2打数2安打。

 きょうはツイているようだ。

 僕はふとポケットに入れたキーホールダーのことを思いだした。

 あのキーホルダーのおかげかも。霊験あらたか。ありがたや、ありがたや。

 そんなことを思った。

 

 


 

 






 

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