第659話 ヒーローインタビュー22

「まずは打のヒーローをお呼びします。 

 1回裏、ノーアウト二、三塁から先制タイムリーヒットを放った、高橋隆介選手です」

 男性アナウンサーから、名前を呼ばれ、Tが小走りでお立ち台に向かっている。

 ホームゲームということで、大歓声が球場内を包んでいる。

 頼むから余計なことを言うなよ。

 僕は祈るような思いでその姿を見ていた。


「次に投のヒーローをお呼びします。

 見事6回を1失点で5勝目を挙げた、バーリン投手です」

 バーリン投手も通訳を伴い、小走りでお立ち台に向かっている。

 頼むから、簡潔に話してくれよ。

 僕はやはり祈るような思いでその姿を見ていた。


「それではまずは打のヒーローの高橋隆介選手にお話を伺います。

 初回、いきなりチャンスで打席が巡ってきました。どんな事を考えて打席に入りましたか?」

「はい、わがしもべたち…じゃなかった、湯川選手と谷口が作ってくれたチャンスだったので、何とかホームに返したいと思って、打席に入りました」

 僕は頭を抱えた。いきなり失言が飛び出したぞ、おい。


「打った瞬間、ヒットになると思いましたか?」

「はい、右中間に打球が飛んだので、捕るな、捕ったら〇す、と思いながら走りました」

 男性アナウンサーの顔がひきつっている。

 そして僕は血の気が引くのを感じた。恐らく僕の顔は真っ青になっているだろう。


「打球がフィールドに弾んだ瞬間、どんなことを考えていましたか」

「はい、アイスクリームの商品券を第一打点賞としてもらえるな、と思いました。

 翔斗、お土産に買って帰るからね。楽しみにしていてね」

 また余計な事を…。


「いきなりの先制点。試合展開的にも大きなタイムリーヒットとなりましたね」

「はい、勝利に貢献出来てうれしいです」

 よし無難な受け答えだ。このまま終わってくれ。


「このように多くのお客様に来ていただいています。ホーム球場でのヒーローインタビューはやはり最高ですか?」

「はい、このような目立つ場はあまり好きではないので、一度辞退しましたが、広報の新川さんがどうしてもでてくれと懇願するので、ちょっと気恥ずかしいですが、この場に立たせて頂きました。

 呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャーンっていう心境です。

 でも、こうやってファンの方々に大きな声援をいただくと、やはりヒーローインタビューって良いものだな、と思います」

 あの野郎…。誰がいつ懇願したよ…。ていうか著作権大丈夫かな…。


「それでは最後にファンの皆様に一言お願いします」

「はい、シーズンはまだ中盤ですが、一勝一勝積み重ねて、秋にはうまい酒を飲むために頑張ります。これからもご声援、よろしくお願いいたします」

 お前はうまい酒を飲むために野球をやっているのか。

 途中、失言もあったが、とりあえず終わった。でも次も気を抜けない…。


「次に投のヒーロー、バーリン投手にお話を伺います。

 バーリン投手、ナイスピッチングでした」

 ペラペラペラ…、通訳に結構長く何かを話している。またかよ…。


「はい、野手の皆様に助けられて良いピッチングができたと思います。

 初回に4点も取っていただいたので、気楽に投げることができましたし、その後も追加点を取って頂いて、野手の皆様には感謝してもしきれません。

 野球は点が入らないと勝てないスポーツなので、初回に点が入ったということは、自分さえ相手チームを抑えれば勝てるな、と思いました。

 でも全員を三振に取ることはできないので、やはりそこは野手の皆様のサポートが必要になります。

 そういう意味でも今日は野手の皆様に感謝しています」

 長げえよ。通訳もよくこんな長い言葉を覚えられるな。

 ていうか、同じことを何度も言っているぞ。もっと簡潔に訳せ。

 僕は心の中でそう悪態をついた。


「6回1失点で、5勝目を挙げられました。今日のピッチングを振り返って、どのようなとことが良かったと思いますか?」

 ペラペラペラペラ…。また返事が長そうだ。

「そうですね。ストレートが良いところに決まりましたし、ツーシームも効果的だったし、カットボールも良く曲がったと思います。

 僕はタイプ的には打たせて取るタイプなので、そういう意味ではうまく投げられたと思います。

 このようにうまくいく時は良いのですが、時にはコントロールが悪く、思ったところに投げられない日もあります。

 そんな時は僕はこう思います。

 良い時もあれば、悪い時もあるさ。

 でも悪い時にそれなりに抑えられるのが、良い投手の条件であり、僕はそういう投手になりたいと思います。

 そのためには様々な球種を磨く必要があり、日々そんなことを考えながら野球をやっています」

 だから長いって。

 隣でTが大きな欠伸をしている。

 あの野郎、自分の番が終わったからって…。


「シーズンはまだ中盤を迎えたところです。優勝争いも本格化していくと思いますが、これからの抱負をお聞かせください」

 ペラペラペラペラペラペラ…。

 おい、いい加減にしろよ。

 長く話すなら、それなりに面白いことを言ってくれ…。


「はい、今日でようやく5勝目なので、シーズンが終わるころには二けた勝利、つまり10勝を挙げられるように頑張りたいと思います。

 それができれば、当然、チームの勝ちにも貢献できると思いますし、その結果として優勝できるかもしれません。

 僕はこのチームに助っ人として来ましたので、一年一年が勝負と考えています。

 このチームはとても雰囲気が良く、ジャック監督をはじめとして首脳陣の方々も良くしてくれるので、引退するまでこのチームでプレーできるのが夢です。

 そのためには体調管理と日々の努力が大事だと考えており、これからも一日一日を大事に頑張っていきたいと思います。

 今日はこの後美味しいものを食べて、ゆっくりと休みたいと思います」

 だーかーら…。それなりに良いことは言っているが…。


 「最後に今日球場にお越しの、そしてテレビラジオでお聞きの札幌ホワイトベアーズファンの皆様に一言ずつお願いします。まずは高橋隆介選手から」

「はい、世の中沢山の娯楽がある中、我が札幌ホワイトベアーズを応援して頂き、ありがとうございます。これからも皆様の期待に添えるように頑張りますので、ヒマがあればまた球場に来てください。

 引き続き応援、よろしう頼んます」

 最後に変な言い回しをしやがって…。微妙な空気になっているぞ。


「次にバーリン投手、お願いします」

「ミナサン、アリガトー。ツギモガンバリマース」

 おっ、最後は短かった。やればできるじゃないか。


 ということで今日のヒーローインタビューが何とか終わった。

 ヒーローインタビューの仕切りは広報担当の仕事であり、またマスコミ対応の仕方を選手に教えるのも、広報の役割だと思っている。

 ファンあってのプロ野球であり、これからもファンの皆様に適切な情報発信をしていきたいと考える、今日この頃である。




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