第655話 広報もつらいよ

 今シーズンのシーリーグは大混戦である。

 現時点の順位は以下の通り


 順位   チーム名     ゲーム差

 1位 仙台ブルーリーブス    ―

    (75試合 40勝33敗2分)

2位 札幌ホワイトベアーズ 1.0

    (73試合 38勝34敗1分)

3位 京阪ジャガーズ    0.5     

    (75試合 38勝35敗2分)

 4位 岡山ハイパーズ  0.5

    (74試合 38勝36敗0分)

 5位 熊本ファイアーズ   3.5

    (74試合 34勝39敗1分)

 6位 川崎ライツ     2.0

    (75試合 32勝41敗2分)


 まだシーズンも半分を過ぎたところであり、順位に一喜一憂する時期ではないが、勝敗によって日々入れ替わる。


 シーズンが終わってみて、あの一試合、あのワンプレーが運命を左右した、ということも起こり得る。

 そう考えると一つ一つのプレーの手を抜けない。

 そのように改めて実感するプレーが、早速初回にあった。


 ツーアウトランナー無しで、僕に打順がまわってきたが、フルカウントからのストレートをファースト後方にフライを打ち上げてしまった。

 球場内を弛緩した空気が包み、相手ピッチャーもマウンドを降りている。

 だが僕はいつもどおり全速力で走った。


 そして一塁を蹴って、二塁に向かいながら横目で打球の行方を見ていると、ライトも前に来ている。

 ライトフライかと思いきや、その打球が何と一塁とライトの間に落ちた。

 いわゆるお見合いという奴だ。


 僕は二塁を蹴って、三塁に向かった。

 送球が来て、タイミングは微妙だったが、タッチを避けながら滑り込み、セーフ。

 スコアボードを見ると、ヒットの青ランプが灯っている。

 思いもよらぬファーストオーバースリーベースヒットだ。


 続く4番のテイラー・デビットソンの打順で、パスボールがあり、僕は先制のホームインをした。

 そしてこれが決勝点になり、札幌ホワイトベアーズは大事な初戦をものにした。

 

 試合終了後、僕はベンチでヒーローインタビューに呼ばれるのを待っていたが、結論として声がかからなかった。

 何でだろう。

 記録上、打のヒーローは僕だと思うが…。


 結局、ヒーローインタビューはこの虎の子の1点を守り抜いた先発の五香投手、中継ぎの鬼頭投手、抑えの新藤投手が呼ばれた。

 

 チッ、せっかくウィットに富んだ、ユーモアあふれる話を考えていたのに…。

 まあそれは次回に回そう。


……………………………………………………………


 私は札幌ホワイトベアーズで広報を担当している、新川といいます。

 早いもので広報を担当するようになって、15年が経ちましたが、自分ももともとはプロ野球選手でした。

 

 大学卒でドラフト6位で外野手として入団しましたが、ケガもあって3年で戦力外通告を受けました。

 ちょうど結婚して、子供が生まれたばかりであり、またケガも癒えていなかったので、現役は厳しいと思っていたところに、球団からチームスタッフとして声をかけてもらいました。

 それから用具係や二軍マネージャー、一軍マネージャーを経て、15年前に広報担当になりました。


 広報担当というのは時に辛いこともあります。

 活躍した選手の談話を聞き出すときは良いのですが、例えば早々と降板した先発投手や、エラーした選手の談話を聞き出す時は、言葉にとても気を使います。

 選手によっても、話を聞きやすい選手や、話を聞くのが難しい選手もおり、なかなかストレスが溜まる仕事であります。


 例えば今シーズンから外野にコンバートした主力選手のTは、エラーしたときでもちゃんと答えてくれるのでありがたい存在ですが、たまに日本語が通じない時があり、頓珍漢な回答を翻訳するのに苦労することがあります。

 

 一方で同じく主力のTは性格は悪くないのですが、口下手であり、特にエラーや凡退した時は話しかけづらいオーラーが漂うので、神経を使います。


 あと苦労するのが、ヒーローインタビューです。

 この辺の話は次回に。

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