第644話 ヒーローインタビュー21

「本日のヒーローは、本日3打点の大活躍、超ラッキーボーイの高橋隆介選手です」

 球場に残ってくれている、札幌ホワイトベアーズファンの歓声を受けて、僕は帽子を取って応えた。

 しかし改めてみると、スタイルも良いし、綺麗な人だ。

 ちょっとキツそうな顔立ちをしているが、それがまた美しさを際だたせている。

 でも、さっきのインタビューを考えると、嫌な予感しかしない…。


「11回表、ボテボテの内野ゴロで貴重な決勝点をもぎ取った、今のお気持ちをお聞かせください」

「はい、滅茶苦茶うれしいです。

 当たりは良くなくても、勝利に貢献出来てうれしいです」


「結果的には決勝点になった、ファーストゴロですが、打った瞬間はどう思いましたか?」

「はい、普通ならダブルプレーですが、ワンチャンあると思って、必死に走りました」

 ここまでは変な質問はない。


「あの場面、クリーンナップを打つ選手なら、最低でも外野フライを期待されていたと思いますが、その点はいかがですか?」

「どんな形でも点が入ったので結果オーライです」

 やはり厳しい質問が来たな…。


「9回表にも京阪ジャガーズファンの夢を打ち砕く、同点タイムリーツーベースを打ちましたね。

 その後、三塁でタッチアウトになった感想はいかがですか?」

 変な質問…。

 普通は打ったことを聞くのでは無いだろうか…。


「はい、三塁まで進んでおけば、勝ち越し点を取るチャンスが増えると思いました」

「三塁コーチャーは必死に止めていたように見えましたが…?」

「はい、視界には入っていましたが、個人的にはイケる、と思って走りました」

「暴走という声もありますが…」

「はい、暴走と好走は紙一重なので、全く気にしていません」


「最後に球場に詰めかけた数少ない、札幌ホワイトベアーズファンに一言お願いします」

「はい、気候の良い初夏の札幌から、わざわざ梅雨時のこんな所まで、来て頂いてありがとうございます。

 明日も明後日も勝ちたいと思います。引き続き、熱い応援をよろしくお願いします」


「ありがとうございました。

 今日のヒーローは、決勝ファーストゴロを打った高橋隆介選手でした。

 今一度、大きな拍手をお願いします」

 最後に僕はまた帽子を取って、声援に応えた。

 思ったほど、ひどい質問は来なかったな。ちょっと拍子抜けした。


 スタンドに残るホワイトベアーズファンの歓声に応え、また記念写真後、ベンチ裏に戻ると、なんとさっきのアナウンサーが待ち構えていた。

「あの、高橋選手…」

「まだ、何か御用ですか…」

 僕は警戒し、身構えていた。まだ何か言い足りないことがあるのか。

「あの、私のことご存じですか?」

「はい、知っていますよ。京阪ジャガーズファンで、札幌ホワイトベアーズに敵対心を持っている、美人アナウンサーですよね。ええ、良く知っていますとも」

 彼女は口に手をやって、クスッと笑った。

 ふと見ると、右手の薬指に指輪が光っていた。


「やはりご存じないようですね。これまで何度かお会いしたことがあるのですが…」

「え、どこでですか?」

「初めてお会いしたのは、高橋選手が高校生の時です」

「え?」

「私はいつもスタンドから見ていました」

「もしかして群青大学付属高校の卒業生ですか?」

「いえ、違います」

「それなら、うちのチームのファンだったのですか?」

「まあ、そうですね。群青大学付属高校のことはずっと応援していました」

 群青大学付属高校は高校野球の名門であり、ファンも多かったので、残念ながら一人ひとりは覚えていない。


「そうですか。誰のファンだったのですか?」

そう聞くと、彼女は照れたようにはにかんだ。

「…ざきさんです」

「え?」

「やまざきさん…です」 

「山崎ですか?、それは希少な存在ですね。

 あいつのファンは幼稚園児か、年配の方しかいなかったはずですが…」

「その数少ないファンが私でした。

 と言っても、山崎さんと知り合ったのは小学校時代ですけど…」

「幼馴染ということですか?」

「はい、そうです。私が小学校2年生の時からの知り合いです」

「失礼ですが、今お幾つですか?」

「はい、30歳です」

 ということは僕と同学年か。

 彼女は山崎との出会いを語り始めた。

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