第640話 名物アナウンサー?
交流戦が終わると、季節は梅雨である。
昔は試合中止が相次いだらしいが、今はドーム球場が増えているので、昔ほどではない。
札幌ホワイトベアーズもホーム球場が、ドームなのでその恩恵に預かっている。
というか北海道には基本的に梅雨はない。
その頃の北海道はカラッと晴れた日も多く、最高である。
是非、初夏の旅行先には、北海道を。
以上、青海旅行社からの宣伝でした。
戯言はさておき、札幌ホワイトベアーズは交流戦は18試合で10勝8敗で惜しくも優勝を逃した。
僕はここまで全試合(58試合)に出場している。
ポジションはレフトだったり、セカンドだったり、稀にショートを守ったり。
いわゆるユーティリティプレイヤーと言えるのではないだろうか?
打撃成績も221打数65安打の打率.294まで上がってきた。
リーグ5位であり、チームでは1位だ。
しかもホームランを7本打っており、打点39、盗塁20という成績を残している。
打順は3番が多く、今シーズンは中軸としての役割も果たしている。
このまま行けば、3割20本80打点も充分に狙える。
この小説の中ではズッコケキャラが定着しているが、客観的に見たら、なかなか良い選手になったんじゃないでしょうか。
誰も言ってくれないので、自分で言ってみる。
最近は僕が大リーグを目指していることは、周知の事実となり、当初と異なり、好意的に捉えられる事が増えてきたと感じる。
今シーズンオフに挑戦するためには、2年連続の打率3割と盗塁王のノルマを自分に課している。
交流戦休みも終わり、今日からは京阪ジャガーズとのアウェー三連戦である。
試合前、関西エリアのテレビ局の取材を受けた。
とても綺麗なアナウンサーからの取材はテンションがあがるが、僕は努めて、無表情を装った。
いつどこで結衣の目に触れないとも、限らないからだ。
「今日は敵チームである札幌ホワイトベアーズのポイントゲッター、高橋隆介選手に来ていただきました」
「はい、よろしくお願いします」
「シーズン序盤は、不調の時期もありましたが、徐々に成績も上がってきましたね」
「はい、好不調の波があるのは仕方ありませんので、重要なのはシーズン通して、成績を残すことだと思っています」
「できれば京阪ジャガーズ戦は眠っておいて頂けると、ありがたいんですが(笑)
ところで今シーズンオフにも、大リーグに挑戦するという噂を耳にしたんですが…」
「はい、希望は以前からも持っていますが、まずはチームの勝利に貢献することだけを考えています。
その上で良い成績が残せたら、次のステップを考えていきたいと思っています」
「高橋選手らしからぬ、優等生的な発言ですね。
世間では大リーグ挑戦は無謀という声もあるようですが、ご自身では勝算はあるのでしょうか?」
あれ?、何かひっかかる質問だぞ?
「え、ええ、大リーグ挑戦は夢ですので、もしかするとその壁に跳ね返されるかもしれませんが、一度きりの野球人生。悔いがないようにしたいと思います」
「高橋選手レベルで、万が一大リーグで成功したら、他の大リーグ挑戦を希望する選手にも勇気を与えますね」
えーと、それはどういう意味だろうか?
「まあ、僕がきっかけで後に続く選手がでてくれば、嬉しく思います」
「そうですね。我々、ファンとても高橋選手の挑戦がどんな悲惨な結果になるか、興味深く思っています」
もし、このアナウンサーが超美人で無ければ、僕はグウで殴っていたかもしれない。
「は、はい。例えうまくいかなくても、僕は後悔しないと思います。
倒れる時は前向きに倒れたいと思っています」
「なるほど、格好良いですね。
その屍は京阪ジャガーズで拾って差し上げますので、失敗して帰国した暁には、是非、京阪ジャガーズに来てください」
僕は何て答えれば良いのだろうか。
ていうか、これ本当にオンエアするのか?
「まあ、失敗した場合の事は考えていませんので、その時はその時は考えます」
「そうですか。今日はありがとうございました。
今日の試合はお手柔らかにお願いします。
札幌ホワイトベアーズの高橋隆介選手でした」
僕は引きつった笑顔を浮かべながら、ベンチに戻った。
みると広報の新川さんが笑いを堪えている。
「高橋、良く我慢したな」
「なんですか、あの人?、僕に敵意があるようでしたが…」
「関西の名物アナウンサーらしいぞ。
外見に似合わず、毒舌で。
あのアナウンサーが出ると、視聴率も上がるらしいし…」
なるほどね。
番組的には面白いのかもしれない。
今日の試合、滅茶苦茶打ってやる。
僕は心に燃えるものを感じた。
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