第638話 嫌な選手、第2位? 

 季節が巡るのは速い。

 つい先日、開幕したばかりと思ったら、もう5月も半ばを過ぎ、来週からは交流戦の季節だ。


 札幌ホワイトベアーズは40試合を消化して、22勝15敗、3引き分けで、2位につけている。

 首位、仙台ブルーリーブスとは3.0ゲーム差。

 昨シーズンの最下位チームが躍進している。

 

 そして逆に大型補強を行い、前評判の高かった京阪ジャガーズが最下位に喘いでいる。

 プロ野球では得てしてこういう事が起る。

 それは戦力が拮抗しているということで、決して悪いことではないのだろう。


 さて僕はというと、ここまで途中出場も含めて、全試合(40試合)に出場し、150打数40安打の打率.267、ホームラン4本、打点23、盗塁13という成績を残している。

 開幕直後は打率一割台と不調に苦しんだが、その後は持ち直してきた。

 打順は3番が多くなっており、今シーズンはチャンスメーカーだけでなくポイントゲッターとしての役割も担っている。


 昨日の移動中にある野球専門誌を読んでいると、開幕前に現役プロ野球選手に聞いたアンケートの集計結果が載っていた。

 ちなみに僕にも球団広報を通じて、アンケートに答えた。

 その御礼として、全国チェーンの喫茶店のプリペイドカードをもらったが、当然のごとく結衣の財布の中に入っている。


 内容を読み進めると、ピッチャーにとって嫌な選手の2位にランキングしていた。

(ちなみに一位は熊本ファイアーズの伊集院選手。

 首位打者を3回とるなどバットコントロールに優れており、長打力もあるし、足も速い)

 文字面だけを見ると、僕は嫌われ者と思われるかもしれないが、決してそんな事はない…、はずだ。

 そのランキングの真意は、打席でに迎えると嫌なバッターということだ。

 決して僕の人間性を否定しているわけではない…、多分。


 その理由を読んだ。

 「しつこく粘るから、球数がかさむ」、「塁に出すと、ちょろちょろと鬱陶しい」、「面倒くさいから打たせると、長打を打つことがある」、「とても嫌らしい」、「ヒットを打った時のドヤ顔が腹立つ」「ウザい」、「顔がムカつく」、「生理的に受け付けない、「自分をイケメンと思っている」、「ヒーローインタビューがバカすぎ」、「奥さんが美人なので不快」等々。


 やっぱり僕は嫌われているのだろうか?

 これは誹謗中傷に類するのではないだろうか。

 それならそれで良いさ。

 嫌われるなら、とことん嫌われ者になってやるぜ。

 ということで、今日の試合も4打席で30球投げさせた。

 結果は3打数1安打、フォアボール1つ、盗塁1つ。

 チームは岡山ハイパーズを4対2で破り、その勝利に貢献した。


 

「よお、栄光の嫌いなプロ野球選手2位」

 僕はため息をついた。

 今日からは交流戦。最初のカードは古巣の泉州ブラックスだ。

 とうことはあいつらがいる。

 高台捕手と岸選手だ。

 いつも僕を夜の街に誘う、悪い人たちだ。


「嫌いな選手じゃなくて、嫌な選手ランキングですよ」

「どっちも大して変わらんだろう」と高台捕手。

 「まあ、あのランキングに出るということは、それだけ良いバッターということだよな」

 珍しく岸選手が僕のことをフォローしてくれた。

「そうか?、あのランキングに入っていなくても、良い選手はいるぜ。

 俺も入っていないし…」と高台さん。

 

 僕はその本を取り出して読んだ。

「えーと、岸選手も7位に入っていますね。

 嫌いな理由は、"当たり損ねがヒットになってずるい"、"意外と長打力がある"、"好調時は手をつけれない”」

「そうだろ、そうだろ」岸選手は腕組みをして頷いている。


「でも、"練習もしないのにいつも日焼けしている"とか"夜の街に誘うくせに奢ってくれない"という声もあるぜ」と高台さんが僕の手から本をひったくって言った。

「いいんだよ。俺はこんな雑誌に載っている内容なんか気にしねえよ。

 じゃあ高橋、また試合終了後な」

 そう言い残して、岸選手が去っていった。

 僕は何も約束した記憶はありませんが…。


 「うちのピッチャーは長旅で疲れているんだから、今日は粘るなよ。簡単にフライを打ち上げてくれよ。じゃあ、また試合終了後にな」

 そう言い残して、高台捕手も去っていった。

 しつこいようだが、僕は今日は何も約束していない。

 試合が終わったら、ダッシュで逃亡しないと…。








 

 

 


 

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