第636話 試合の行方

 九回表、札幌ホワイトベアーズは僕のタイムリースリーベースヒットにより、2対2の同点に追いつき、さらにワンアウトランナー3塁と絶好の勝ち越しのチャンスとなった。

 ここで迎えるバッターは、トップバッターの湯川選手である。

 仙台ブルーリーブスの内野守備は前進守備のバックホーム体制。

 僕は内野ゴロでもホームに突っ込む所存である。


 ところが湯川選手は、グリーン投手のストレートとスプリットの前に空振り三振に倒れた。

 ここはバットに当てれば一点の場面だったのに…。

 これはあとで説教だな。そう思った。


 仮に湯川選手が凡退しても、2番には谷口が控えている。

 貴様、打たなかったらどうなるかわかっているよな。

 湯川選手共々、廊下に正座させるからな。


 しかしながら谷口は平凡なライトフライに倒れた。

 よし二人とも試合が終わったら、お説教だ。

 

 九回裏、谷口の打順に鬼頭投手が入り、セカンドを守っていたブランドン選手がファーストに入り、僕がセカンドに入った。

 延長戦を見越した布陣だ。

 札幌ホワイトベアーズは8回まで負けていたので、勝ちパターンのKLDSを温存している。


 9回裏は鬼頭投手が、ピシャリと抑え、延長戦に入った。

 10回表の攻撃は道岡選手からの打順だったが、鼻をほじっているうちに終わってしまった。

(あくまでも比喩です。念のため)


 10回裏はルーカス投手。

 今シーズンも安定しており、三者凡退に抑えた。

 

 そして11回表。

 この回は6番のブランドン選手からの打順である。

 一人ランナーがでると、僕に回ってくる。

 できればワンアウト2,3塁で僕に回してくれ。

 そう思っていたら、ヒットとフォアボール、送りバントで本当にワンアウト2、3塁で僕の打順を迎えた。

 願ってもない、「ごっちゃんです」状態である。

 

 当然、仙台ブルーリーブスの内野陣は超前進守備を敷く。

 内野ゴロなら、すぐにバックホームするだろう。


 なぜ「ごっちゃんです」状態かというと、相手投手は三振か内野ゴロを狙ってくるからだ。

 つまり投球を低めに集めてくるだろう。

 よって狙うコースを絞りやすい。


 もっとも一球くらいは裏をかいて、高目にくるかもしれない。

 さてどうすんべかな。

 僕はゆっくりと打席に入った。


 仙台ブルーリーブスのマウンドは、右腕の多賀投手。

 ストレートは140km/h台だが、シンカー、カーブなど多彩な変化球を使ってくる。

 

 初球、カーブ。

 外角低めに決まった。

 敵ながら素晴らしい球だ。


 2球目。

 内角高めへのストレート。

 見送ったがストライク。

 うーん、簡単に追い込まれた。

 こうなると相手は三振を取りに来るだろう。

 低めだけでなく、全てのコース、球種に対応しなければならない。


 3球目。

 外角へのツーシーム。

 バットにあててファール。


 その後も4球連続でファールで粘った。

 多賀投手の凄いところは一球もボール球を投げていない。

 すべてストライクゾーンぎりぎりを狙ってくる。


 そして8球目。

 ようやくカーブが外角に外れて、ボール。

 これもストライクゾーンぎりぎりであり、審判の手が上がってもおかしくはなかった。


 9球目。

 内角へのシンカー。

 これも辛うじてバットに当てた。

 ストライクゾーンの4隅をうまく使ってくる。

 コースを絞りづらい。

 でもそれについていっている僕もさすがだとは思いませんか?


 10球目。

 真ん中低めへのストレート。

 僕はうまくバットに乗せた。

 打球はレフト線上に飛んでいる。

 フェアになってくれ。

 僕は祈るような気持ちで一塁に向けて走り出した。


 そして打球はフェアゾーンで弾んでいる。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。

 三塁ランナーに続き、二塁ランナーもホームインしたのが見えた。

 

 オッシャー。

 僕は2塁ベース上で両手でガッツポーズした。

 やった、やった。

 踊りだしたい衝動に駆られたが、さすがにそれは控えた。

 でもうれしい。

 翔斗、結茉、父さんはやったぞ。


 そして湯川選手にも遅ればせながら、タイムリーヒットが生まれ、とどめは代打の光村選手のツーランホームランで完全に試合を決めた。


 これで点差は7対2となり、11回裏は鈴鳴投手が2点取られたものの、何とか後続を抑え、7対4で勝利した。

 あれ?、ということは今日のヒーローインタビューって、もしや…。

 勝利の歓喜の輪の中、ベンチで新川広報が渋い顔をしているのが見えた。



 


 

  

 

 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る