第629話 いよいよ開幕戦(11年目)

 3月下旬。いよいよ開幕戦だ。

 昔から読んで下さっている方の中にはお気づきの方もいるだろう。

 第二子の予定日は3月ではなかったかと。

 そう作者がその設定を忘れていたのだ。

 幾らノートに付けながら書いていても、さすがはバードマン(鳥頭という意味です)。

 完全に忘れていたらしい。

 さっき思い出して、若干予定日よりも遅れているという設定にするそうだ。

 作者には別途ヤキ入れるとして、今回の開幕戦はホームで良かった。

 なぜならば産まれそうになったらすぐに駆けつけられるからだ。

 もちろんこれはご都合主義の賜である。


 ということで結衣と翔斗は、大阪から来てくれている結衣のご両親におまかせするとして、僕としてはいよいよ開幕戦だ。

 しかも4番。高校時代でも4番なんか打ったことも無いのにプロで、しかも開幕戦で打つなんて予想だにしていなかった。

 まさに人生、一寸先は闇だ。(使い方を間違えています。作者より)


 もっとも4番だろうと、碁盤だろうと、吸盤だろうとやることは同じである。

 自分の役割はちゃんとわきまえている。

 塁に出てチャンスメークしたり、長打を打ってランナーを返したり、ホームランを打ってヒーローインタビューを受けたりすることだ。


 今年の開幕カードは、ホームでの熊本ファイアーズ戦。 

 試合前には厳かな開幕セレモニーがある。

 札幌ホワイトベアーズは監督がジャックに変わっての初年度であり、ファンからの期待も大きい。

 観客席は超満員であり、そのほとんどが札幌ホワイトベアーズファンだ。

 ちらほらと僕を応援するお手製のボードを掲げてくれている方もおり、そいうものを見つけると心から嬉しく思う。


 セレモニーが終わり、一人ずつ守備につく、そう最初はレフトからだ。

「レフト、高橋隆介」

 アナウンスとともに僕はフィールドに飛び出し、観客席にサインボールを5つ投げ入れた。

 セカンドやショートと異なり、外野は観客席からの距離が近い。

 大歓声を背中に感じるし、時々ヤジも聞こえる。

 とは言え、某関西の球団と異なり、辛辣なヤジは少ない。


 一回表、熊本ファイアーズの先頭バッターの国分選手の打球がいきなりレフト線付近に来た。

 これはさすがに取れない。

 俊足の僕でなければ…。


 僕は最短距離で打球に追いつき、走りながら捕球した。

 僕はそのままファールゾーンの壁にぶつかった。

 もちろんラバーフェンスがあり、たいして痛くはない。

 そしてボールはちゃんとグラブに収めている。

 捕球した場所はフェアーゾーンだったので、もし捕れなければツーベースヒットコースだった。

 

 観客席は大いに沸いており、国分選手は天を見上げながら、ベンチに戻っていった。

「いいぞー、りゅーすけ」

「やるじゃねえか、高橋」

「よっ、千両役者」

「さすが谷口」

 多分最後のは、昨年までレフトと言えば谷口だったので、その印象が強いのだろう。

 でも間違えないでほしい。

 僕はあんなにごつくないし、もっとスマートである。

 もっと言うと、この打球は谷口なら、捕れていなかったのではないだろうか。


 そして2番の麻生選手、3番伊集院選手の打球もレフトに飛んできたが、難なく捕球した。

 まさかとは思うが、レフトが穴だから狙えと、熊本ファイアーズ内で共有されているのではあるまいな。

 まあ別に良いけどね。僕の練習の成果を見せる好機だから。


 ということで攻守チェンジとなり、札幌ホワイトベアーズの攻撃となった。

 早速、出塁してやろう。

 僕は気合を入れてバットを握り、ベンチをでようとした。


「おい、高橋。お前どこに行くんだ?」

 麻生バッティングコーチの声で我に返った。

 そうだった。

 今日は4番での出場だった。つい、いつもの癖が出てしまった。

 

 僕はバットを持ったままベンチに座り、戦況を見守ることとした。

 できればワンアウト2,3塁の場面で回してほしい。

 そうすれば内野ゴロでも一点入る。

 そんな勝手な事を考えていたら、この回はあっさり三者凡退に終わり、僕に打順は回ってこなかった。

 チッ、面白くねえの。

 そう心の中で悪態をつきながら、僕はネクストバッターズサークルからベンチに戻った。






 

 

 

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