第628話 開幕戦スタメン発表
オープン戦の最後の3試合。
僕はいずれも途中出場だった。
代走1試合、守備で出場2試合で、打席には立たなかった。
プロの世界は結果が全て。
結果がでていない以上、仕方がない。
そしてオープン戦が終わり、いよいよ開幕戦の前日。
開幕スタメンの発表があった。
1番ショート、湯川。
やはりそうか…。
仕方がない。
2番ファースト、谷口。
強打者を2番に置く、大リーグのトレンドに倣うようだ。
3番サード、道岡。
昨シーズンは不振だったとは言え、オープン戦は好調を維持し、捲土重来を期している。
4番レフト、高橋。
ほう、たかはし選手が4番か…。
え?、たかはし?
高橋姓はこのチームに1人しかいないはずでは…。
5番、センター、デビットソン。
強肩、俊足が武器の新外国人選手だ。
昨シーズンは主にマイナーリーグでプレーしたが、かってはドラフト1位で入団した超有望株だった…って、おい、何で4番高橋に誰も突っ込まないんだ。
あ、そうか。
これも夢か。そりゃそうだよね。
オープン戦で46打数3安打、打率.065の選手を4番で使うなんて、頭がイカれた監督しかありえない。
僕は頬をつねった。
痛い。強くつねりすぎた。
おかしいな。夢なのにとても痛い。
6番、セカンド、ブランドン。
昨シーズンから野手では唯一残留した。
日本球界2年目となるので、適応を期待されての残留だろう。
年齢も29歳とまだ若いし…。
7番、ライト、佐和山。
大卒でドラフト9位でプロ入りし、今年4年目の強肩瞬足の選手で、バッティングも長打力がある。
作者も存在を忘れていたが、キャンプそしてオープン戦でアピールし、開幕スタメンをつかみ取った。
昨シーズンオフには戦力外通告を受けるのでは、と噂されていたが、何とか生き残ったようだ。
8番、キャッチャー、武田。
今シーズンも上杉選手との正捕手争いは続くようだ。
堅守と強肩には定評がある。
9番、ピッチャー、バーリン。
日本球界3年目を迎え、開幕投手に抜擢された。
大リーグに挑戦した青村投手の穴を埋める活躍が期待される。
「トイウコトデ、アシタハイヨイヨカイマクセンデス。ミナサン、キアイイレテイキマショウ」
「オウ」
ジャック監督の檄にみんなで答え、ミーティングが終わった。
「よし、いよいよ始まるな」
「さあ、やるぜ」
口々にポジティブな言葉を言いながら、チームメートが散っていき、僕はその場に残された。
なぜ、誰も突っ込まないのか。
もしかして僕が知らないだけで、このチームには僕以外に高橋という強打の選手がいるのか。
「どうした、高橋。帰らないのか」
金城ヘッドコーチに声をかけられた。
「あのー」
「オウ、なんだ」
「明日のスタメンなんですけど…」
「オウ、4番。頼んだぞ」
やっぱり僕が4番のようだ。
「なんで僕が4番なんですか?」
「何でと言うと?」
「だってオープン戦、絶不調だったじゃないですか」
「ああ、オープン戦はあくまでもオープン戦だ。
お前だってオープン戦に備えてキャンプをしていたわけじゃないだろう?」
「そりゃ、まあそうですが…」
「実績、調子、その他、いろいろな要素を考慮した末の決定だ。
別に我々はお前にホームランを期待しているわけじゃない。
言わばつなぎの4番として、チャンスメークを期待している。
頼むぞ、昨シーズン打率ランキング3位」
そういって、金城ヘッドコーチは去っていった。
僕はノロノロとロッカールームに戻り、帰り支度をした。
良いのだろうか、こんな絶不調の僕が4番で…。
球場を出ようとすると、麻生バッティングコーチとすれ違った。
「おう、お疲れ」
麻生コーチが左手をグランドコートに突っ込んだまま、右手をあげた。
「あ、お疲れ様です」
そうだ、こいつにも聞いてみよう。
何で僕の4番を阻止しなかったのか。
こいつの目は節穴か?
「麻生コーチ」
「あん、何だ」
「あなたの目は節穴ですか?」
僕は単刀直入に聞いた。
「何だ、いきなり。喧嘩を売っているのか?」
「何で僕が4番何ですか?」
「じゃあ何番が良かった?」
「いえ、そういうことではなくて、絶不調の僕がなぜスタメンなんですか?」
「さあ、ジャック監督が決めたことだ。
お前が一番4番にふさわしいと思ったんじゃねえの?」
「麻生コーチは止めなかったんですか?」
「俺が?、なぜ?」
「だって僕は絶不調ですよ」
「お前はわざと凡退しているのか?」
「そんなわけないじゃいですか」
「そうだろ。それなら確率的にもそろそろ打てるはずだ。
お前は腐っても、いじけても、バカでも昨シーズン打率三割を打ったバッターだ。
実力がないとプロでシーズン通算で3割など打てない。
まあ、そういうことだ。ガンバレ」
そう言って、麻生コーチは去っていった。
僕は茫然とその場に立ち尽くした。
首脳陣の考えることはよくわからない。
でも、まあ、全力は尽くそう。
そんな前向きな気持ちにはなった。
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