11年目 日本球界での集大成?

第615話 フロリダにて

 年が開け、11年目のシーズンが始まった。

 今年の正月は結衣の実家で過ごした。

 3月に第二子(女の子の予定)が産まれる予定であり、無理をさせるわけにはいかない。

 子どもが無事に産まれるまでは、あまり心配をかけないようにしたい。


 そして1月4日。

 今年もフロリダでの自主トレに参加するために、成田空港に向かった。

 もちろん自主トレ費用は自腹である。

 一番最初のフロリダでの自主トレ(プロ入り4年目)の時は、全額黒澤選手に出してもらった事を思うと、自分で支払えるようになったことは純粋に嬉しく思う。


 飛行機はビジネスクラス。

 長旅なので、疲れを残さず、現地ですぐに練習に参加するためには、必要な投資である。

 ちなみに作者の夢は、いつかビジネスクラスでアメリカか、ヨーロッパに旅行に行くことだそうだ。

 金も時間も無い、彼にとっては途方もない夢らしい。

 いつか叶うと良いですね。www


 今回も黒澤選手他、ほぼいつものメンバー(谷口、通訳兼雑用係の三田村含む)であるが、自主トレ後半にはトーマス・ローリーの好意で、現地のチームの練習試合等に混ぜてもらうことにしている。

 今の僕は少しでも外野手として、実戦の生きた球を体験したいのだ。


「ヘイ、タカハシ、タニグチ、ミタムラ。オヒサシブリデス」

 空港ではトーマスが迎えに来てくれていた。

 トーマスは、静岡オーシャンズ、そして泉州ブラックス時代のチームメートであり、セカンドのポジションのライバルではあり、良き友人であった。


 「タカハシ、メジャーチャレンジ、ショウキ?」

 トーマスが車を運転しながら、言った。

 トーマスは日本生活が長かったし、本人の努力家の性格もあって、日本語を多少話せる。

 ていうか、「正気」という言葉を知っているのは純粋に凄いと思う。


「やっぱり野球の本場のアメリカで自主トレして、純粋にここでプレーしてみたいと思うようになったんだ。

 今季は外野手に挑戦して、内外野守れるようになれば、来年にでも挑戦したいと思う」

 三田村が英語に訳した。

 すると、トーマスが爆笑している。

 僕の話のどこに爆笑する要素があったんだ?


 「おい、三田村。

 お前、今何と訳したんだ?」

「普通に直訳しただけだけど。何か?」


 「タカハシ、アイカワラズユニークネ。ワタシ、ウレシイヨ」

 トーマスは運転しながら、まだ笑っている。

 どうでも良いが、ちゃんも前見て運転して欲しい。


 翌日からは自主トレ開始。

 といっても最初はあまり負荷はかけない。

 黒澤選手も三十代後半になり、僕らも三十歳手前。

 練習は量より質としていきたい。


 でも谷口は質もさることながら、量も凄い。

 僕らが引き上げても、まだウェートトレーニング室に籠もっている。

 「気が済むまで練習しないと死んじゃう病」は、まだ治らないようだ。

 きっと引退するまで、悪化する一方だろう。

 

 谷口としては、昨シーズン、チーム1位の19本のホームランを打ったが、それではまだ不満のようだ。

 今シーズンは30本を目指すらしい。頑張ってね。


 僕も筋力は大事だと思っているが、僕の目指すプレーの特性上、速力との兼ね合いが重要である。

 あまり変なところに筋肉をつけて、速力を失っては本末転倒だ。


 ということで、自主トレの第1週は最初は軽く、徐々に負荷をかけていった。

 1日休養日を挟んで、2週目からは守備練習にも本格的に取り組む。


 とりあえず明日の休養日は、ビーチでゆっくりするつもりである。

 


 

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