第611話 外野守備の怖さ
初戦の開いては、ホームでのシドニードルフィンズ戦だ。
シドニードルフィンズのユニフォームは、なぜか黄色を基調としており、正直、奇抜な印象を受けた。
イルカであれば薄い青とかじゃないのかな。
ゴールドコーストシャークスの本境地は、ゴールドコーストシーサイドスタジアムであり、海から近く、海風の影響を受けやすいそうだ。
もちろんドーム球場ではなく、観客席は最大でも10,000人程度とののとだ。
青いフェンスと緑のフィールドが美しい球場だ。
バックスクリーンには簡易的な電光掲示板がついている。
「なかなか綺麗な球場だな」
「アメリカ時代を思い出すぜ。向こうのマイナーの球場はこんな感じだ」
隣りにいた五香選手が言った。
アメリカではこのような小中規模の球場がどこの街にもあるらしい。
さすがアメリカ。
裾野が広い。
僕は早速、1番レフトでのスタメン出場を告げられた。
秋季キャンプではみっちりと練習してきたとは言え、実戦で外野を守るのは初めてだ。
ライパチという言葉を知っているだろうか。
少年野球や草野球ではライトに打球が飛ぶ事が少ないため、人数合わせの選手や、守備の苦手な選手をライトに据えることが多い。
ところがプロの世界では普通にライトに強い打球を打ってくるし、ホームやサードへの送球もあるので、肩の強さが求められる。
そして、センターは外野の要であり、守備範囲も広い。
よってプロでは比較的守備の苦手な選手は、レフトを守ることが多い。
僕は1番レフトなので、略してイチレフである。
まるでカメラみたい。
試合が始まり、ツーアウトランナー無しの場面で、初めて打球が飛んできた。
平凡なレフトフライ。
これは難なく捕球した。
そしてその裏、僕のオーストラリア初打席を迎えた。
相手ピッチャーは、クリスという右腕。
130キロ台のストレートと、90キロ台のカーブが持ち味らしい。
ということで、いきなりスリーベースヒットを打った。
正直に言って、打つ方はここでは無双だと思う。
まだ一打席立っただけだが、球の速さも、キレも、変化球の精度もやはり全然違う。
投げてくるコースも、日本ではストライクゾーンをギリギリ掠めるかどうか、というところを攻めてくるし、明らかなボール球というのは少ないが、こちらではかなりアバウトに見える。
この回は続くバッターの犠牲フライで、僕はホームインした。
そして2回表。
ゴールドコーストシャークスはツーアウト満塁のピンチを背負った。
相手打者は9番ではあり、小柄であまり長打力は無さそうだ。
左バッターボックスにはいっている。
ベンチからの指示もあり、僕はやや前よりに守った。
そしてノーボールツーストライクと追い込んだ、3球目。
外角へのボールを打ち上げた。
打球は逆方向、つまりレフトに飛んでいる。
平凡な外野フライだ。
僕はそう判断し、少し前進した。
だが思いの外、打球が伸びてくる。
やばい。
僕は懸命にバックに切り替えた。
だが追いつけない。
グラブを出したその先を掠め、打球はフィールドに落ちた。
やっちまった。
僕は必死に打球を追いかけたが、拾い上げたのはフェンス手前。
懸命にバックホームをしたが、バッターランナーまでホームインした。
記録はヒット…。
ランニングホームランだ。
だが誰の目にも僕のエラーと映っているだろう。
これが実戦の怖さか…。
生きた打球はノックのそれとは全く違う。
僕は早くも自信を喪失しつつある。
だがチームには申し訳ないが、これが今の時期で良かったと思う。
外野守備を舐めていたつもりは毛頭なかったが、こういう経験をしないと外野守備の怖さを知ることがなかった。
一つのエラーが大量失点に繋がってしまうのだ。
もう次は同じ失敗はしない。
僕は気合を入れて、定位置に戻った。
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