第610話 ゴールドコーストシャークス合流

 オーストラリアで野球自体はかなり歴史は古いが、プロ野球リーグとしては、正式に発足してから約15年程度ということだ。


 リーグは概ね11月から2月にかけて行われ、僕は12月中旬までの参加を予定している。


 レベルはそれほど高くはないが、北半球のシーズンオフに行われるため、各国から参加する選手も多く、日本の球団からも10人以上が派遣されている。

 

 僕の目的は試合勘を失わないことである。

 秋季キャンプで掴みつつある外野守備を試合を通じて、確たるものにする。

 そのために自主練習ではなく、試合に出続けることを選んだのだ。


 僕の参加するチームは、ゴールドコーストシャークス。

 ゴールドコーストと言えば、日本でも有名な観光地である。

 そんな地で野球をできるなんて、何て幸せなんだろう。


「おい、見ろよ。

 すげぇ、綺麗な海岸だな」

 車の中で五香がはしゃいでいる。

 

「あのね、君は何しにここに来たのかな?

 僕らは野球漬けの毎日を過すために、ここにいるんですよ。

 海を見てはしゃいでいる場合じゃ、ないんではないかな」

 

「そうですね。

 さすが、高橋選手。

 今日は荷物を置いたら、球団の方が街中を案内してくれる予定でしたが、高橋選手だけは室内練習場で下ろして差し上げますね」

 助手席から球団職員の美園さんが振り返って言った。

 

「え、あの。

 いえ、すみません。

 ちょっと格好つけてしまいました。

 僕も連れて行ってください」

 

「素直にそう言えば良いのに…」

 五香選手に嫌味を言われた。

 はい、すみません。

 

「いやー、スゲェ。

 来てよかったな」

 五香選手が歓声を上げた。

 その言葉に僕も素直に頷くしかなかった。


 僕らはスカイポイント展望台というところに来ている。

 ゴールドコーストを一望できる場所だ。

 

 眼下には美しい白い砂浜とターコイズブルーの海が広がっていた。

 さすが人気の観光地だけある。

 

「なあ、グレートバリアリーフってどこにあるんだろう」

 結衣が以前、テレビの旅番組を見て、行ってみたいと言っていたのを思い出したのだ。


「さあ、美園さんに聞いてみれば良いんじゃね」

「いや、でもさ、美園さんに聞いたら、まるで物味遊山でオーストラリアに来たと思われないかな?」

「大丈夫だ。

 もうすでにバレている」

「そっか。

 それならもう良いや」


 僕はカバンの中から、「世界の歩き方」(明民書房刊)を取り出した。

「えーと、グレートバリアリーフの場所は…」

「やっぱり物味遊山じゃねぇか」

 五香選手に呆れられた。

「あれ?、グレートバリアリーフもゴールドコーストも載ってないな。

 オーストラリアでもマイナーな観光地なのかな…」


「おい…。その本、オーストリア編になっているぞ」

「え、何か違うのか?」

「説明するのもバカらしい…。

 一つだけ言えるのは、その本はここではなんの役にも立たないということだ」

「このウィンナーシュニッツェルを食べてみたいんだが…」

「日本に帰ってから、奥さんに相談するんだな」


 折角オーストラリアに来たからには、見聞を広めるのも大事ではないだろうか。

 え、そんな場合じゃないだろう?

 明日からは頑張るので、今日は許してください。


………………………………………

 翌日、僕と五香選手はゴールドコーストシャークスに合流した。

 オーストラリア人の選手が多いが、韓国、台湾、遠くはオランダから来た選手もいた。


 ゴールドコーストシャークスのユニフォームは、その名のとおりサメをモチーフにした色、つまり濃い青色だった。

 ユニークなのは帽子で、目のような模様なあり、まるでサメを真正面から見たようなデザインたった。

 

 チームメートに挨拶し、早速練習に参加した。

 まずはウォーミングアップ。

 そして守備練習。


 プレーのレベルとしてはそれほど高くないと感じたが、身体能力は皆高い。

 そして何よりも楽しんで野球をやっているのが印象的だった。

 

 明日は早速試合があるとのことで、僕はジョージ監督から1番レフトでスタメン出場を告げられた。

 ジョージ監督はオーストラリア出身で、アメリカのマイナーリーグ、独立リーグでのプレー経験があるそうだ。


「タカハシ、ペラペラペラペラペラ…」

 ジョージ監督が僕のところに来て、何か言っている。

 えーと、何て言っているのでしょうか?

 

「高橋は日本では超一流選手と聞いている。

 ここは若い選手が多いので、是非、お手本を見せて欲しい、との事です」

 美園さんが通訳してくれた。


 超一流選手…。

 いい響きだ。

 そう言えば、秋季キャンプだのオーストラリア遠征だのでバタバタして、記すのを忘れていた事柄があった。

 その内容は後日落ち着いてからお話する。 

 

 

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