第609話 ワクワクと不安と

 作者はオーストラリアに行ったことがないし、これからも行く予定はない。

(ハワイやフロリダはおろか四国、沖縄にも行ったことがない)

 きっとこんな所なんだろうな、と想像しながら、描写をするので、実際と違っていても許してください。


 11月といえば、日本は秋と冬の端境期であり、寒い日も多くなる。

 でもオーストラリアは南半球にあるので、季節が日本とは逆である。

 つまり日本の5月に近い気候だ。


 空港から一歩外に出ると、澄み渡った青空が広がっており、カラッとして、でも時折優しい風が吹き、とても気もちが良い。

 

「やっぱりオーストラリアっていいな。で、コアラはどこにいるんだろ」

 サングラスをした長身の男が、僕の隣でチョコスナックを食べている。


「食うか?、〇アラのマー〇」

「ありがとよ」

 一つもらって食べた。

 久しぶりに食べたが、なかなか美味しい。

 ちなみにこの長身の木偶の坊は、名を五香という。


「あ、いたいた。こっちですよ」

 札幌ホワイトベアーズ球団職員の

美園さんが同行してくれている。

 英語を話せるので、通訳代わりでもある。


「お前もアメリカいたんだから、英語しゃべれるんじゃねぇの?」

「チッチッチッ。

 これだからド素人は困る。

 同じ英語でも、アメリカ英語とオーストラリア英語ではイントネーションやスペルが違うんだ。

 日本だって、地域によって方言があったり、発音が違ったりするだろ。それと同じさ」

 そうかい、そうかい。

 それだけ必死に言い訳するところを見ると、ほとんど喋れないということだな。

 

 今回、オーストラリア遠征に参加するのは、僕と五香選手の2人だけである。

 五香投手は今シーズンも、投手としては貴重な敗戦処理、野手としてはどこでも守れる便利屋(キャッチャー以外)として活躍した。


 来季も二刀流を継続するということで、志願してオーストラリア遠征に加わったのだ。

 本人としてはもう一皮剥けたいということだ。


「なあ、何で来季、大リーグ挑戦しなかったんだ?」

 移動の車の中で、五香選手が聞いてきた。

「うーん、一言でいうと今のまま挑戦しても大リーグで活躍するのは厳しい、と思ったからだな」


「なるほどな…」

 五香選手は腕組みをしながら、頷いた。

「そう言えば、五香はマイナーリーグの経験があるんだよな。

 どうだった」

 

「そうだな。過酷の一言だな。

 一応少しだがメジャーを経験させてもらったが、メジャーとマイナーでは全てにおいて天と地ほどの差がある」

 

「やっぱりそうか」

「AAAまで上がると、まだマシだったが、その下のクラスでは移動はほとんどがバスできついし、金は無いし、ロッカールームは汚いし、試合やるのは田舎が多くて飯食う場所もないし…。

 まあ、日本で報道されている以上にきつかったな」

 「そうか…」

 

「それと比べると良く言われているように、日本の2軍は恵まれている。

 そんな厳しい環境でハングリー精神を養った奴らと、まともに勝負しても勝てるわけはない。

 そもそも身体能力だって違うしな」

 

「率直に言って、俺が大リーグに挑戦することについてどう思った?」

「そうだな…」

 五香選手は言葉を切って、少し窓の外を眺めていた。


 「まあ、正直に言って、自分の野球人生だ。

 好きにすれば良いんじゃねぇ?、と思ったな。

 十中八九失敗するとは思ったが、もしかしたらと思わせるところがお前にはある」

「そうか、それはどんなところだ?」

「うーん、言葉にするのは難しいな。

 何というか、直感かな」

 五香選手はそこでまた言葉を切った。


「お前くらいの守備力で、足が速い選手なら、向こうにはゴロゴロいる。

 むしろ向こうでは非力で肩も弱い方かもしれない。

 だから正直に言って、マイナーリーグでも平凡な存在だと思う」

「そりゃ、どうも」

 

「でもな、向こうで成功するのに大事なのは、能力だけじゃないと俺は思う」

「ほう、それはどういう事だ?」

「大事なのはチャンスを掴み取る力だ」

「???」

「相当有望な若手でもなければ、与えられるチャンスは多くない。

 もしかしたらほとんどチャンスがないかもしれない。

 でもその少ないチャンスを確実に掴み取る事ができれば、道は開ける…かもしれない」

 

「チャンスを掴む…か」

「ああ、それが例えボテボテの内野安打でも良い。

 もちろん過程も大事だが、向こうは運とかツキも実力のうち、と評価するところがある。

 だから俺にはお前が成功するか、失敗するかは判断することはできない。

 まあ失敗する可能性の方が遥かに高いとは思うがな。

 コ〇ラのマー〇、もう一つ食うか?」

 「あ、ああ、もらうわ」

 

 五香は移動の車の中でも、コア〇のマ〇チーを食べている、

 どうやらオーストラリアでこれを食べるのが、子供の頃の夢だったらしい。


 さあ今日から約1か月。

 オーストラリア生活が始まる。

 どんな感じかな。

 ワクワクと不安が入り混じっている。 

 

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