かくして魔女は右腕と出会う

あか

1章 魔女と宝箱

第1話 出逢い

 ギィーギギギ、ギィ

 

 木造の扉を無理やりに開く音がする。薄暗い店内に少しづつ日の光が差し込んでいく。


 (ご新規さんかな?)

 

 店主は耳障りの悪い音で判断をした。あの扉はかなりの年代もので、なかなかにスムーズには開いてくれない。コツを掴めばどうということはないのだが……

 

 ギィ、ガコン!

 

 ようやく開くことができたようだ。少し呼吸を乱しながらフードをかぶった人影が入ってくる。扉は自然に閉じていき店内はまた薄暗くなる。あの建て付けの悪い扉は、開くのは嫌がるくせに閉じるのは素早い。なんとも内向的。だれに似たのだか。


 「いらっしゃいませ」


 声をかけるが反応はなく、フードをかぶったお客?はゆっくりと店内を見て回る。フードを深くかぶっているため顔は口元しかわからないが、黒い艶のある髪がフードからのぞいており、体格は細身。胸に微かな膨らみがある。雰囲気からして若い女性のようだがこんな骨董品屋になんのようだろうか。店内をひと通り物色した後にお客はようやく口を開いた。


 「右腕は置いていないかしら」


 はてみぎうでとは?店主の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。言葉の意味を理解できていない。

 

 「聞こえてますか?右腕を探してると言ってるの」

 「えーと……それは、なにか手伝って欲しいということですか?」

 「違うわ。比喩ではなく言葉通りヒトの右腕だけが必要なの。あるのかしら、ないのかしら?」

 

 彼女は少々苛立たし気に答えてから、「あなたにもついているそれよ」と、言いたげに店主の右腕に顔を向ける。が、店主の右手は机の陰になって彼女からは直接見えていないようだ。

 

 「……うちは魔道具屋なのでナマモノはちょっと、」

 「そう…ならいいわ。お邪魔しました。」

 

 簡潔に答えると、彼女はフードを翻し出口に向かって歩いていく。その姿をポカンとしながら見送る甲斐性なしがひとり。彼女は木造の扉を開けようとして、

 

 ギィーギギギ、ギィギィ

 

 扉は、日の光を浴びたくないといわんばかりに抵抗する。先ほどよりも重いようで、腕の力だけじゃなく体全体で圧しているが、ほとんど扉は動いていない。肩で息をする彼女をみて少し可笑しく思ってしまった。店主は勘定台を越えてゆっくり扉の方へ歩いてゆく。

 

 「それにはコツがいるんですよ。それと、」


 ヒトの右腕を求めたお客が振り返る。

 

 「ナマモノは扱ってませんが、玩具ブリキの右腕でよければここに」

 

 ――そういって彼は自身の右腕ガラクタを差し出した


 



 

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