二人きりの語らい
会場が凍り付く。視線がベアトリーチェに集中する。
「騎士ごっこだけでも大概なのに、今度は舞踏会でガーターを落とすなんて。無礼にもほどがあるわね」
氷のような冷たい目で、女性はベアトリーチェを糾弾し続ける。
「もうすぐ私の旦那になるレオナルドになんてことをしてくれたの。ほら、さっさと立って謝りなさい!」
気まずい雰囲気を悟ったレオナルドが割って入る。
「イザベラ。あまりベアトリーチェを責めないでやってくれないか」
「そうはいかないわ。私はこの女があなたに失礼を働いたことが許せないの」
イザベラはレオナルドの結婚相手であり、ミディオラ公爵――つまり、ベアトリーチェの夫の娘である。ただし、ベアトリーチェと血の繋がりはない。彼女はオッタヴィアーノ公爵とその前妻との間の子であった。
ストレートのブロンド髪にきつそうな性格を感じさせるつり目。真っ赤な目は炎のよう。美しいがどことなく近寄りがたい雰囲気がある。
イザベラは自分より若い新妻に容赦しなかった。
「外国育ちのあなたにダンスなんてものは合わないのかしらね」
「そ、そんな」
しどろもどろになるベアトリーチェ。イザベラの追及は尚も続く。
「そうでしょう? 槍を携えて、土埃に
イザベラは舞踏会の参加者に同意を求める。返答はなかったが彼らの目にはベアトリーチェに対する嫌悪が見て取れた。
イザベラは得意顔をする。新妻を罵倒できて公爵令嬢の彼女はご満悦であった。
レオナルドに予想外の行動をされるまでは。
「行こう、ベアトリーチェ」
「え、ちょっと」
二人は二階に繋がる階段を上るとそのまま姿を消してしまった。
「どうして、あんな外国女なんかに……」
◇
二階のバルコニーは静かであった。
ベアトリーチェとレオナルドにはこちらの方が性に合っていた。
世辞が飛び交い、裏で陰口のネタがつくられる社交場は、二人にとって居心地が悪く、一方で自然の風景ならそんなものを気にしなくてよいのだから。
「レオ。ごめんね。色々と」
「いいんだ、ベア。僕もあそこにはいたくなかったから」
一六歳の男女が月光に照らされる。暗い夜に影はできないが、二人の心には濃い影ができていた。
思い通りに生きられない苦しみ。
貴い身分の二人には生まれついた瞬間から自由などなかった。何をしようにも父親が介入するから、自分では何も決められない。
イザベラが言っていたように、レオナルドは彼女との婚約を強いられていた。公爵家の令嬢を娶ることでミディオラ公国との結びつきを強めたいという父の思惑によるものであった。
一方、外国育ちと罵られたベアトリーチェはと言えば……。
「ねえ、レオ。私、嫁がされてもうすぐ一年が経つけどね。まだ居場所を見つけられないの」
レオナルドは無言で聞き手に徹した。もう何度も聞かされている話にも関わらず。
それで彼女の気持ちが晴れるなら、と思っていたから。
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