十四話 冷たい風 中編
「私たちがやっていることには色々と疑問があると思う。質問してくれれば、一部の部外秘のことや、個々の相談のこと以外なら答える」
「でしたら、あの、黒歴史研究部は、どういう活動をしているんでしょうか?」
歴奈はドラゴに、一番気になっていることを訊ねた。
「今言ったように、黒歴史の悩みを抱えた人たちを助けている。黒歴史に関する相談が来た場合に活動しているけど、どう対応するかはケースバイケース。『
「黒歴史者?」
「私たちは黒歴史で悩んでいる人のことを『黒歴史者』と呼んでいる。そして相談を持ち掛けてくる人全体を『相談者』と呼んでいる」
歴奈が見てしまった黒歴史簿にも、それら単語は出てきた。
「黒歴史者と相談者は一致する場合が多いけど、付き添いが一緒に来ることもあるし、悩んでいる本人には内緒で友達が相談を持ち掛けて来るようなケースもある」
先ほどの幽霊のような女子生徒のように、黒歴史で悩んでいる当人が一人で来たケースでは、黒歴史者と相談者が一致しているのだろう。
黒歴史簿で見た赤石も同じだが、付き添いのチア部の友達に関しては、相談者ではあっても黒歴史者ではないということらしい。
他にも、黒歴史者が相談者に含まれないケースもあるようだ。
「相談者が来た場合は、どういった対応を?」
「まずは話を聞く。私が一緒に聞く場合もあるけど、黒歴史者が相談に来ている場合、夜宵が一人で話を聞くことが多い。あのパーティションの奥のスペースで」
あそこは黒歴史の相談を聞くための場所らしい。
「相談に来ても、黒歴史について話すのをためらう黒歴史者も多い。恥ずかしい過去のことだし、心に傷を負っていることもあるから。だけど夜宵に優しい声を掛けてもらううちに、話してみようという気になるらしい」
分かる気もする。歴奈も夜宵の声を聞いていると、緊張が解けて話しやすくなった。
「もしすぐに話してくれなかったとしても、夜宵はゆっくりと待つ。相談の回数を重ねていくと少しずつ話してくれるようになって、やがてはどんな黒歴史のことで悩んでいたのかを打ち明けてくれるようになる黒歴史者がほとんど」
元々、望んで相談にやってきている人たちなら、そうなのかもしれない。
「そして夜宵に黒歴史の悩みを打ち明けて優しい言葉を掛けてもらったことで、気分が楽になった、心の傷が癒えたという黒歴史者は多い」
「だけど気の持ちようだけでは悩みが解消しないケースもある。その場合は状況を変えるための具体的なアドバイスを送ったり、手助けをすることもある」
メンタル面以外からアプローチでの助言、助力をする場合もあるらしい。
「他にも、黒歴史のことがばれないように手を貸すこともあるし」
「赤石先輩の、彼氏のふりをしてあげたりですか?」
「男子のふりをして低い声でずっとしゃべるの、ちょっと大変だった」
ドラゴが男子のような低い声で言った。『フェイク彼氏』を演じたのも本当らしい。
「あと、『
「『黒前史』?」
「黒歴史になるようなことをやっているのに、本人が恥ずかしさや後ろめたさを自覚していない状態を、ウチの部では『黒前史』と呼んでいる。黒前史を積み重ね続けているような場合に、それを黒歴史だと自覚させて、それ以上の恥の上塗りを回避させる」
そういう活動もするのか。しかも、完全にオリジナルの造語まで作っている。
「それから、さっきは黒歴史者が黒歴史のことを話してくれるまでゆっくり待つと言ったけど、どうしても話してくれない場合、本人の意思に反して黒歴史を調べることがある」
聞いた途端、胸がざわめいた。
「黒歴史者と相談者が別の場合が多い。もちろん、興味本位で人の黒歴史のことを知りたいなんていう相談が来たとしても、受けつけない」
「では、一体どういうときに人の黒歴史を調べたりするんですか?」
「時間の経過で、黒歴史者の心理状態や周囲の状況がより悪化してしまうようなケース。そういう緊急の場合に限って、解決方法を探るために黒歴史の内容を調査する。もちろん、黒歴史者を傷つけないように最大限の配慮をする」
調査を行う理由は真っ当なようだが、それでも受け入れ難かった。
歴奈にも黒歴史と言うべき過去がある。
それを調べられたらと考えるだけで、暗い気持ちが込み上げて来る。
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