第11話 スライムを食べよう

「おじいちゃーん。アイ……領主様が呼んでるわよー!!」


「んぉ!? り、領主様が!?」


 ソフィアの呼びかけに、獣人族のじいさんが家から飛び出てくる。

 例の件についてソフィアから話を聞いてもよかったが、気分転換したくて僕も顔を出しに来た。


 ちなみにイヴも隣にいる。

 

「やぁ、今日は話があって来た」


「我ら獣人族は魔王軍の侵略で家を無くしています……どうか追放だけは!!」


「税金さえ払えば僕は文句を言わない。むしろ、僕の役に立ってもらおうとここまで来た」


「役に立つ、とは?」


 僕は要件を話した。

 獣人族がスライムを食べるという話。

 それが領地で再現できるかどうかの確認。


 全てを聞いた後、獣人族のじいさんは嬉しそうにポンと手を叩いた。


「おお!! それでしたら簡単ですよ!!」


「本当か?」


「えぇ、スライムを締めて下されば!!」


 締める?

 魚とかでたまにやる、鮮度を保ちながら殺す方法だよな?


 スライムって身体を保ったまま締める事ができるのか?


「真ん中の核を一突きすれば、スライムの体を保ったまま殺すことができます。だから何だという話でしたが……まさか食べられるとは」


「ほ、ほんとにあのスライムを食べるの? 緑色でドロドロした魔物よ!?」


 二人の反応を見るに、異世界でもスライムを食べるという文化はあまり根付いていないらしい。


「獣人族の一部ではスライム食が根付いていましたが……どうも見た目のせいであまり広まらず」


「周りの皆もスライムはちょっと……って反応だったしね」


 だが、食べられるという事実。

 食料不足の今、食材の幅が広がるのはかなりデカい。


「ソフィア、この辺りでスライムが出現しやすい場所は?」


「ここからすぐ近くの洞窟だけど……ってまさかアンタ!?」


「狩りに行くぞ、スライム」


 それとスライムを食べるなんて経験、前世では絶対に体験できないしね。

 未知の世界が僕の好奇心を強くさせる。


 非常時とはいえワクワクしてきたなぁ!!


 こうして、僕達三人でスライムを狩りに行く事となった。









「集まった、けど」


「本当にスライムを調理するのですね……」


 数時間後、近くの森で何体かスライムを討伐し、獣人族のじいさんの元に持ってきた。

 

 スライム自体はとても弱く、締める事も簡単にできた。 

 が、問題はその見た目。


 濃い緑色の全身がぷるぷる震えており、海洋生物のような独特の気味悪さがある。

 確かにこれを食べるってなると少し勇気がいるかもな……


「スライムか~一体どんな味なんだろうなぁ」


「知らないわよ……これを見てスライムを食べたいだなんて、アンタもよく言えるわね」


 まぁ僕にとっては、恐怖より興味が勝ってるんだけど!!

 早速始めてもらおう。


「スライム料理ですが、まずは下ごしらえをする必要があります。手順はそこまで難しくありません」


 獣人族のじいさんが事前に準備していた、沸騰したお湯の入った鍋。

 その中に、あのスライムがまるまる入れられていく。


「おー、お湯が緑に染まった」


「う、うわぁ……」


「凄い光景ですね」


 スライムをお湯に入れた途端、身体の緑色がお湯に溶け出し、なんともグロテクスな見た目に変化する。

 匂いは……あんまりしないな。


「このまま数十分煮ると、体色の緑が完全に抜けます。透明になったスライムを取り出し、冷水で冷やして……」 


 緑色のお湯から色が抜けた透明なスライムが出てくる。

 見た目は丸くなった寒天みたい。


 そのスライムが冷水に入ると、キュッと身が締まっていく。

 サッと冷水に晒した後、スライムを板の上にのせて包丁で細かく切ると、麺のような見た目に変わった。


「これがスライム麺です!!」


 まさかスライムが麺になるとは……


 器に盛られた透明な麺が元はスライムだったなんて、誰も思わないだろうな。

 僕からすれば、麺の太さがうどんみたいで馴染み深い。


「これがあのスライムなの? 確かに綺麗だけどスライム……」


「不思議ですね。スライムがここまで変化するとは」


「よし、早速食べるか」


「アンタ本気なの!?」


 箸を取り出し、麺に軽く塩をかけて小皿に盛る。

 本当はめんつゆが欲しかったけど、この世界にそんな素晴らしい調味料はなさそうだ。

 残念。


 というワケで一口試食。


「ちゅるっ」


「ひいぃ……」


 ん、これは。


「意外とイケるな」


「嘘ぉ!?」


 美味しい。

 少しクセはあるが、身がしっかりしていて食べ応えがある。

 

 麺ならバリエーションも豊富だし、主食として意外とイケるのでは?


「ちゅるっ……確かに美味しいですね。少し臭みがあるのが気になりますが」


「ショウガ等の薬味を入れて煮ると臭みが消えます。今は用意できませんが、なくても美味しく食べる事はできますよ」


「えぇ、本当……?」


 盛られたスライム麺を恐ろしそうな表情で見るソフィア。

 やはり元があのスライムという先入観が強いのだろう。


「ほれっ、美味しいから食べてみろ」


「むぐっ!?」

 

 というワケで肉の時みたく、スライム麺をソフィアの口に突っ込む。

 口に入れられた瞬間、彼女は毒見でもしてるかってくらい厳しい顔つきだったが、何度かモグモグして飲み込んだ時には、


「……美味しい」


 スライム麺を受け入れていた。


「い、意外と美味しいのね……んぐんぐ」

 

「獣人族の里ではスライムをだしと一緒に煮て食べる事が多かったです。後は乾燥させて保存食にしたりとか……」


「保存だと!? どれくらい持つ!!」


「えぇと、最長で三~四ヶ月は持つかと……」


 まさか保存が効くとは。

 食料不足の今、主食になれる食材でありつつ、保存が効くという万能性。


 保存ができれば季節の変化にも対応しやすいし、何よりスライムを多く狩っておいて余った分を保存、なんて事も可能になる。


「イヴ、スライムの繁殖条件は?」


「スライムは生後三日~一週間程度で分裂を始めます。元が弱いので繁殖力が凄まじいのです」


 意外と早いな。

 これなら長期的な主食に使えそう。


 後はスライム麺を領民に広める事だけど……うん?


「あ、あの……」


「私達も食べてよろしいですか?」


 どうやらその必要はなさそうだ。












「食糧問題は順調に解決している!! 水路工事も終わりそうだし、後は農業を発展させれば……!!」


 あれから更に一週間ほど経過したが、スライム料理は少しづつ浸透している。

 麺の味は勿論、乾燥させて日持ちするのが何より大きい。


 川の魔物がいなくなったおかげで魚も取れるようになり、領民が水を汲める頻度も上がっている。

 

 まだまだ課題は多い。

 が、この調子で食糧を安定させる事ができれば、っていう段階まできた。


「それも大事ですが、イバール伯爵から借りたお金もありますよ」


「だよねー」


 事業を色々進めているとはいえ、借金は返さなければいけない。

 一応、借りる額は減らしたが、利子含めてかなりに残っている。


 収入は安定すると思うけど、問題は……


「そろそろ返済日か」


「イバール伯爵の領地までの馬車を手配します」


「助かる」

  

 両親が勝手にやった事だからよりムカつくけど、この借金はおかしい。

 何故なら借りた額に大して、利子があまりにも多すぎるから。


「年利50%って……厄介な相手から借りてんじゃねえよ」


 しかも来年になれば60%になるらしい。


 永遠に貸し続けるつもりか?

 前世だったら速攻アウトだぞ。


 イバールというヤツは中々に悪質だ。

 こーれは今年中にまとめて返せるよう、準備をしないとマズいか?


 前には進んでいるのに、課題の一つ一つが面倒だ……


◇◇◇


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