第10話 相変わらず食糧問題は続く

「おーい!! そっち人が足りてないぞ!!」


「分かってるって!! あーもう!!」


 領の近くにある巨大な川。

 そこで冒険者や職人を始めとした人が工事をしている。


 指揮するリーダーに従い、小言を言いながら作業をする者たち。

 

「まさか節約して浮いたお金で水路工事を行うとは、そこまで考えていたのですね?」


「水はあらゆる産業の中心だ。大金をかけてでも絶対に建設したかったんだよ」


 その光景を遠くから眺める僕とイヴ。


 節約は借金返済のお金を生み出す為だけではない。

 水路建設という新たな物を作り出す為に必要だった。


 僕の力だけでは魔物は退治できても、水路を建設する事はできない。

 他人の力を借りるべき所にお金をかける。


 領地改革に必要な要素を、僕はケチったりしないからな。


「こんなの序の口だ。これからもっと忙しくなるぞ、イヴ」


「そうですね。環境も大きく変わることですし、修行も量より質を優先するようメニューを……」


 僕としては修行以外の部分にも力を……ってまあ今は大した事務作業もないしいいけどさ。

 これで水は確保できた。


 後は安定して食料を確保する事。

 まぁ、これが一番難しい気がするけど。









「水があるからっていきなり食料が現れるワケじゃないんだよなー」


「もやし等を除けば早くても一ヶ月は必要です。主食を含めるともっとかかりますが」


 再び屋敷に戻って考える。

 水があるからといって全てが解決するワケではない。

 

 農業には時間がかかるし、狩りも領内のレベルを考えたら、なぁ?


 ただ厄介な魔物は消えたから魚を釣る事はできるか?

 結構広いし、この前来た時もそこそこ数がいた。

 香辛料もこの世界は前世とそこまで価値が変わらなくて割とあるみたいだし、味の方は大丈夫そう。


「一番は主食だ。ジャガイモか小麦、その辺りが欲しいが……無理だよなぁ」


 絶対に農業は安定させたい。

 狩りはまだ難しいかもしれないが、少なくとも主食や野菜くらいは自分達で賄えるよう体制を整える。


 問題はその間の食料をどうするかだ。


 節約期間中の三ヶ月は僕の魔物退治で”一応”領民の支持を得ることができたが、農業中の期間をその功績だけで抑え込むのは難しい。 

 輸入にも限度はあるし何より高い。


(領民は魔物の肉による”幸せ”を知ってしまった……この状況で飢えが続くのは流石にマズい)


 飢えに慣れていた所からいきなりご馳走がやってきたんだ。

 今度また同じ状況に戻れば、領民の反発はより本格的なものになってしまう。


 主食とまではいかなくても、腹持ちがよくて手軽に取れる食材があればなぁ。


「うーん」


 考えても考えてもアイデアは出てこない。

 気晴らしがてら、イヴの尻を軽く揉んだ。


「んっ……ご主人様は私の身体が好きなんですか? それとも女体だから?」


「両方。イヴの身体は替えのない至高の逸品だ」


 あぁ、やっぱ領主の立場って最高だな。

 クソ最低な事でも受け入れてくれるメイドがここにいる。


 考えるのもめんどいし、しばらくイヴの身体でも堪能してようか、とボーッとしていた時、


 ギギッ……


「うわっ、なにしてんのよ」


 扉を開けて、嫌そうな表情の聖女様がやってきた。


「これが領主の力だ。ソフィアも来るか?」


「嫌よ。アタシのお尻は安くないんだから」


 頬を膨らませてそっぽを向くソフィア。

 オーラの色は赤とピンクか。


 これはこれは……相当ヤキモチを妬いてるな。


「僕はソフィアの事、特別だと思ってるよ? 僕に大して堂々としていて、意外と好意的だし」


「意外とチョロいですよね、ソフィア様」


「誰が扱いやすい女よ!!」


 やっぱりソフィアはいい。

 憂鬱な気持ちが晴れやかになる。


 お礼代わりも兼ねて、スッとソフィアの頭へ手を伸ばしてみた。


「……ふんっ」


 お? 拒否しないのか?

 手を頭の上に乗せると、僕はそのままナデナデした。


 たまに身体がビクッとなって、顔を赤らめてる姿が可愛らしい。


「何? 文句あるなら許さないわよ」

 

 そしていつも通りの毒のある小言を呟いたのをキッカケに、僕は彼女の頭から手を離す。

 結構楽しかった。


「っていうかメイドもメイドよ。嫌なら嫌とハッキリ言ったらいいのに」


「私の身体一つでご主人様が満足するなら安いのでは?  高級品をねだられるより遥かにコスパがいいです」


「コスパ重視で自分の身体を捨てないでよ……」


 とか言いつつ少し暇な時間ができると、僕の方へ胸か尻を少しだけ突き出すイヴを知っている。

 本人は無意識みたいだけど、意外とエッチな女の子だ。


「で、何か悩み事かしら? 明らかに疲れた顔してたし」


「察しがいいな。実は農業が発展するまでの食料をどうしようか考えていた」


「あー、育つまでに時間がかかるから? アタシ達もそこで悩んでたのよね……」


 やっぱ話題にあがっていたか。

 本格的に取り組まないと少しヤバいかもなぁ。 


「てか、アンタが食料について考えるなんて意外ね。もしかしていい人?」


「んなワケあるか。食料を安定させなければ、人の流出が激しくなる。そうなれば僕のハーレム計画も終わりだ」


「可愛い女の子も来ないしね〜? ま、頑張りなさいよ、ヘンタイ領主様♡」

  

 ほぉ、随分強気な態度だな。

 少しわからせるか……と、ソフィアのスカートに手を伸ばすと、何かを察して僕から離れた。

 ちぇっ


「難民の方々は何か知っていませんか? 例えば土地由来の食べ物とか」


「その辺は既に共有してるし新しい情報なんて……あっ」


「ん?」


 と、ソフィアが何かを思い出したらしい。


「確か最近来た獣人族のおじいちゃんが、”スライムは食べられる”とか言ってなかったっけ」


 スライムを……食べる?

 前世では想像もしなかった発想に、流石の僕も心の中で驚いた。


◇◇◇


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