第9話 意外と悪くない(ソフィア視点)

「超最悪なんだけど……」


 何故、アタシはあんな事を言ってしまったのだろう。

 散々苦しめてきた領主に向かって”カッコイイ”なんて。


 冷静に考えなくてもアイツがやった事といえば、魔物退治とその肉を領民に振る舞っただけ。

 これで全て帳消しにできると思ったら大間違いだ。


(アタシって男の趣味悪いのかな)


 何故そんな事を言ったのか?

 クロトという辺境伯を分析して彼のどこがいいのか考えてみる。

 決して好きだからとかではない。


 えーと、まずは?


 大胆な所、

 強引な所、

 妙な自信に満ち溢れてる所、


 やるべき事は見定めてるし、そのために必要なら自分が率先して前に立つ姿。


 後、可愛い顔して毒舌なのはギャップがあって……


「ほんとに趣味悪いじゃんアタシ!?」


 まさか、ここまで趣味が悪い女だったなんて。


 風の噂でオラオラ系の王子様に求婚する貴族女性が後を絶たないと聞いた事があるけど、アタシも彼女達と変わりない。


 やっぱりそうなの?

 アタシの好みはアレなの!?


 すっっっっごく認めたくないんだけど!?


『その”欲望”を捨てない世界を作ればいいだろ?』


 でも、あの言葉はキュンとした。

 

 色々と押さえ込んでいたアタシに、押さえ込まないで暮らせる世界を作ろうとするアイツの夢。

 聖女とか優しいからとか、概念的な何かに囚われていたアタシの心が少しだけ救われた。


 ……本当に少しだけよ?


「意外といい所はあるのよね……最低だけど」


 アイツの欲望は、女を集めてお触りし放題のハーレムを作ること。

 そんな領主許していいワケがないし、聖女としてその野望をぶん殴ってでも止めた方がいい。


 でも、そのために必要な手間はかけるし、その最低な欲望で皆が救われそうな事実もあって、正直複雑。

 勿論、その救われた人の中にアタシはいるし……


「どうされましたか、ソフィア様」


「アイツの事を考えてたのよ。うっとおしいくらいアタシの頭の中にやってくるから」


「……それは好きなのでは?」


「えっ?」


 思わず動揺した。


 もぉ!! アイツのメイドだから変なからかわれ方をされてる。

 イヴは「本当ですか?」と頭を傾げてるし……


「……そんな安っぽい感情じゃないのよ」


「はぁ」


「言葉では表現できないってこと!! あぁ、もう自分で話しててようやく理解できた……」


 好きとか嫌いとか、そういうのではない。

 アタシはわからせたいし、アイツはアタシを面白がりながら受け入れてくれる。


 独特な関係を愛とか好きとか、そういうので表すのは違うと思う。

 ふぅ、少しスッキリした。


「つまり愛している、という事ですね?」


「はぁ!?」


 落ち着いてきたアタシに、メイドからとんでもない爆弾発言が飛んでくる。


「な、なななななななんでアタシがアイツを愛してるって話になるのよ!?」


「言葉で表せない関係となると、もはや結婚とかそういう次元になると思うので……」


「けっ、けーーー!?」 


 自分のじゃないレベルの高い奇声が周りに響く。


 結婚!?

 結婚ってあの結婚よね!?


 聖女と領主が結婚するの!?


 変なワードが連発されるせいで、アタシの心が異常にドキドキしている。 

 

「話が飛び過ぎよ!! アタシはデレデレしない、惚れてもない、ラブラブもしてない!!」


「ではご主人様が私を愛してるとすれば?」


 アイツがイヴを愛している?

 まぁ、確かにいつも一緒にいるし、お触りだっていっぱいしてる。














 深く考えなくても、そこに愛が生まれるのはおかしくない……












「ひぐっ……ぐす……」


「えっ」


 その時、何故かアタシの感情はぐちゃぐちゃになった。


「何よそれぇ……アタシの事好きとか言ってたくせに、一番に構うのはメイドって意味わかんないわよぉ……」


「ソ、ソフィア様? ご主人様はそこまで言ってませんが……」


 すっごく気にくわなかった。

 ハーレムを作ろうとしてるし、多くの相手がいてもおかしくない。


 だけどアタシを放置するのは違うと思う。


 面白いと気に入ってくれて。

 アタシのありのままを受け入れて。

 本音でぶつかって、大胆でカッコイイ姿まで見せて……


「バカバカバカァ!! アタシの心を散々ぐちゃぐちゃにした癖に、絶対許さないんだから!!」


「ソフィア様って、意外とめんどくさいお方なのですね」


「めんどくさくないわよぉ!! アイツの方が百倍めんどくさい!!」


 こうなったら意地でもわからせてやる。

 アタシという女を相手にするという事を。


 アタシと同じくらい、アイツの心もかき乱してやるんだから!!








「な、ななな!?」


 なーんて新たに意気込んで、アイツに突っかかろうとした一週間後。

 アタシはとんでもない光景を目にする。


「おぉ、ソフィアじゃないか」


「じゃないかって、何よこれ!? この人達は誰!?」


 川に向かって多くの冒険者や職人が出入りしている。

 ここまで人が来たことは生まれて初めて。

 イベントも目玉となる物もないこの地に、これだけ集まっているという事は……


 絶対、アイツが何かをした。


「もう水汲みは必要ないぞ。これから水路工事が始まるからな……フハハハ!!」


 あぁ、もう!!

 そーいう大胆な所をカッコイイって思っちゃう自分が嫌だ。


 色々言ってやろうと思ったのに!!


◇◇◇


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