第10話:生きていた名将
彼は、かつての帝国陸軍の亡霊でも、反抗の象徴でもない。
“静かに燃え続けていた真の軍人”――そして、最期の決断者。
【地名非公開・南樺太 “第零防空壕”】
吹雪が地表を覆う北方の無人圏。
だがその地下深くに、国家ですら忘れた男が生きていた。
『樋口喜一郎』大将
かつての彼は、ソ連による北海道侵攻作戦で徹底的に大出血をさせて最後までソ連を苦しめた英雄であった。
奮戦むなしく最後の砦たる”函館”がソ連によって落ちた時、自決しようとしたがかつて助けたユダヤ人達の説得にて密かに逃れたのであった。
帝国陥落から5年。
樋口は、ただ一度も表に出なかった。
だが、あの日の映像――
天皇陛下の声明を見た瞬間、彼の目が動いた。
「……帰ってこられたのか……ついに!」
部下も家族も失い、部隊も存在せず、彼は”独りの軍”であり続けた。
だが、ここに来て――選択の時が来た。
彼は椅子に深く座りながらかすれた声で、かつての仲間の名前をひとつずつ呟いていく。
消えていった者たち。
誇りを守れず、手の中で死んでいった若者たち。
そして最後にこう呟いた。
「……お前ら、よく耐えたな! 今度は俺が、やる番だ」
「陛下! ……私は、陛下がその剣を掲げるならば、その盾となります」
【数日後・伊400艦内】
「日下艦長、緊急通信――“特別認証:ひ−0−0−1”です。」
日下が驚く。
「……まさか……あの人が、まだ……!」
通信映像に現れたのは、硬く鋭い眼差しを持つ軍人。
それは誰の目にも、かつての帝国が誇った「盾の将」の姿だった。
「我が名は、樋口喜一郎。日本の盾として、最後の一撃を放つ。日下艦長、伊勢神宮の祭主様から聞いています! 共に戦いましょう! この国の“奪還”を――本物にするために」
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