第11話:崩壊の始まり

  圧倒的戦力差……のはずだった。

 だが、“古き亡霊”と思われた艦たちが、戦場を変えた。


【太平洋戦域】


 多国籍連合海軍・第三統合艦隊(艦数:500隻)

 構成:米国海軍機動部隊、アジア防衛連合艦隊、南米合同支援艦隊。

 制海権奪取と伊400・雪風の撃沈を目的とする殲滅作戦。


 コンピューター曰く、「勝率98.2%」。

 だが、この予想は外れて――この戦域は地獄と化していた。


【第一波:深海より来る“幽霊”――伊400】

 ……沈黙から始まった。


 深度800mを超えて潜航していた伊400が、突如として浮上。

 レーダーには映らない。

 音響でも捕らえきれない。

 だが、次の瞬間。


「放て! 武御雷神の矛! 標的、前方米国海軍機動部隊!」

 武御雷神の矛の閃光が海面を割り、連合艦隊の最前列を一瞬で消し飛ばす。


【撃沈:エセックス改級航空母艦/乗員3,400名】

「なっ……何が起きた!? レーダーには何の反応も無かったはず……ッ!?」

「我々の海図が――違う!?  これは幻影か!」


 だが、これは始まりにすぎない。


【第二波:嵐の中の“閃電”――雪風】

 突然、南南東方向より高熱波を伴う突風が吹き荒れる。

 空母カリフォルニア・ネオが、艦橋ごと粉砕された。


「識別不能の高速物体が接近中! 速度マッハ4.3? 飛行形態か!?」


 答えはひとつ。


 雪風の兵器の一つである“超音速高熱ミサイル”による斜行突入。


「これが……あの“雪風”か!? 戦後資料で存在抹消されたはず――ッ!?」


 日本本土決戦の最中、日本海軍陽炎型駆逐艦”雪風”は最後の最後まで大暴れしたがある日、突然に消息を絶ったのであるが最もこの雪風は別である。


 機関部が核融合炉で強制稼働するその姿は、もはや艦ではなかった。

 それは、“雷そのもの”。


 対空砲が追いつく前に、三隻の戦艦が一閃される。

 爆発音は一拍遅れて届く。


【第三波:連携――“神意すら感じる”戦術】

 連合艦隊は、自動戦術演算で陣形を再構築。

「圧倒的物量で雪風と伊400を包囲し、一斉射撃せよ!」


 だが次の瞬間――


 伊400、海面すれすれに浮上して雪風と完全連携。

 海上に“十字砲火”の殺戮空間を作り上げる。


 雪風のミサイル攻撃・レールガンと、伊400の武御雷神の矛が同時着弾。

 立体戦術――人類の戦術史に存在しない、三次元包囲の完成。


 その結果、指令中枢喪失:アジア防衛艦隊及び連合軍全指揮網崩壊


【戦闘終盤:恐慌、そして崩壊】

 敵艦隊は自壊を始める。


「味方艦が撃ってきた!? 電子戦ハッキングだ!」

「指令が……被覆コードが違う!  これは誰の命令だ!?  誰が?」


  雪風搭載の妨害波【ミヅチ】による情報戦開始。

 各国の最新兵器が、“幻の敵”に向かって誤射を繰り返す。

 指令系統が錯乱する中、伊400の艦橋で、日下が呟く。

「我らが失ったものを、再び、日本を地上に浮かび上がらせるためだ」


 【完全勝利】

 500隻中、生還艦:10隻

 大破放棄艦:26隻

 撃沈艦:464隻


 作戦開始から47分。

  世界最強を自称した多国籍海軍は、たった2隻に壊滅された。


 【戦後国際速報】

「連合海軍第一艦隊壊滅。世界初、超次元戦による敗北」

「“亡霊艦隊”再臨か?  異次元を異動する伊400・雪風の伝説は実在した」

「コンピューターすら理解不能! これが“日本の意志”か」

「世界、震える。だが、日本は黙して進む」


【米国首都ワシントンDCホワイトハウス統合安全評議会バンカー地下第3層】

 “絶対の敗北”を疑う者など、そこにはいなかった。


 連合軍統括大統領――トルーマン。

 鉄血の支配者。

 言葉と圧力だけで第三世界を黙らせてきた男。


 彼は、自信満々にこう言っていた。


「伊400?  幽霊船など、火力で沈めろ。雪風?  妄想の中の艦だろう。」


 だが、その笑顔は――

 敵の“撃沈リスト”に、自軍の旗艦が並び始めた瞬間、消えた。


 【リアルタイム戦況スクリーン】

 《撃沈:第三旗艦エセックス改》

 《撃沈:空母カリフォルニア・ネオ》

 《通信断絶:アジア艦隊全域》

 《雪風・伊400識別不能。構造不明。速度・火力共に規格外》


 トルーマン「……これは何だ?」


 彼の声は、かすかに震えていた。

 だが、事態は容赦なく進行する。


《推定艦載兵器:荷電粒子砲? 索敵無効》

《味方艦が同士討ち状態に。艦内コンピュータ暴走》

《連合艦隊――壊滅確定》


「ふ、ふざけるな……ッ! 状況を再解析しろ! あれはただの旧型潜水艦だ!  雪風だと?!!」


 側近が慌てて喋る。

「大統領、お下がりください!  ストレスレベルが……!」


「黙れぇぇええ!! 日本は! 負けたはずだッッ!! 天皇は、幻影だ!  影だ! ……なぜ、なぜだ……! 俺たちが、負けるわけがない……ッ!!!」


 拳で制御卓を叩き割る。

 額には汗が噴き出し、呼吸が不安定に。


「今すぐ……再出撃を……いや、核を使え……! このままでは、俺が――俺が世界の笑い者に……」


 その瞬間、バクンッ!

 異様な音とともに、トルーマンの胸部が激しく波打つ。

「ッ……ぐ、あ……がっ……!」


 彼は椅子から転げ落ち、両手で胸を掴む。

 全身がけいれんし、眼球が上を向く。


 大統領医療サポート班が駆けつけて大統領の安否を確認する。

 心電異常検出/即時ショック応答ゼロ


「う……そだ……! 日本ごときが……俺を……こんな……」

 その言葉を最後に、トルーマンの体は沈黙した。


 数時間後……凶報が世界を駆け巡る。

「統合連合軍大統領トルーマン氏、心筋梗塞により死去」

「歴代最強の“世界指導者”と呼ばれた男の、あまりに静かな最期」

「雪風と伊400、ついに“王”を落とす」

「世界、混乱へ――新たな“秩序”はどこへ向かうのか」

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