第7話:突入! そして

 艦内に総員戦闘配置警報が低く鳴り響いている。

 赤色灯が断続的に明滅する中、日下敏夫艦長が司令塔に静かに立っていた。

 その背後には、重装備に身を包んだ黒衣の影たち。

「柳島大佐以下6名到着!!」


 日下と柳島はお互いに敬礼しあう。

 艦内に特殊部隊の隊員たちが集まっていた。

 黒い特殊水圧耐圧スーツに、最新の兵器とスキャナーを装備した6名の精鋭。


 柳島大佐他5名は元々、別の並行世界日本からやってきた元、習志野駐屯地に居 を構える日本最強部隊“第一空挺部隊”の男たちである。


「探査チーム、準備完了!!」

 日下は、隊長の柳島に目を向ける。

「柳島さん、状況は把握していますか?」

「ああ、作戦の要綱は十分に理解しているし失敗は絶対できない事も」

「ええ、今回の作戦ですがいかなる犠牲を払ってでも任務を遂行です」

「了解!」


 日下の言葉に柳島が頷きながら一歩前に出る。

 短く刈られた髪、熱き魂がマグマの如く湧き上がる様のまなざし。

 だが、その眼の奥に宿るのは、過去に幾度となく死線を超えてきた者だけが持つ“静かな狂気”でもある。


 日下は非情な命令を出すことに葛藤していたが目は鋭く光っていた。

「柳島大佐達の任務は、“天ノ扉”への潜入! 海中要塞の中枢へ到達し、“扉”を開けて陛下の救出だ」


 作戦幕僚が補足する。


「現在、海中要塞内部への主導経路は厳重に封鎖されています。しかし、外周の旧式排気孔ラインを経由すれば、敵の検知網を回避して中層階層へ侵入可能ですが……」


 隊長が口を開く。

「帰りの保証など、初めから求めていない! だが、目的は必ず遂行する」


 日下はその言葉に頷いた。


「……目標は明確だ。陛下の救出! そして、扉を開いたらその瞬間、伊400が突入し、要塞内に突進して陛下たちを収容する」


 特殊部隊の一人が、わずかに笑みを浮かべる。


「ようやく、本当の戦ができそうだな」

「……ああ、君たちの真価が証明される作戦にもなる」

 日下の言葉が静かに落ちる。

「この世界に、日本がまだ死んでいないという証を刻んで来い」


 柳島は敬礼し、無言で背を向けた。

 部隊は一糸乱れぬ動きで格納庫へと消えていく。


 間もなく、伊400出撃! 特殊部隊、発艦用小型艇へ搭乗完了。


 司令室が静かに赤から青へと照明を切り替える。

 深海の戦闘モード。

 全艦、沈黙の中で牙を研ぎ澄ませるような緊張が走る。


「伊400、潜航深度を1200メートルに。前方進路、天ノ扉への最短ルートへ固定。この艦は……魂を取り戻すために、再び海を裂く。」


 日下の命令が艦全体に響き渡る。

「伊400――出撃!!」


 磁気推進システムが静かに回り出す。

 鋼鉄の巨艦が、音もなく深海を進み始める。


 同時に――その陰に滑るように離れていく影。

 特殊部隊を乗せた小型潜航艇が、漆黒の海を縫って「天ノ扉」へと向かう。


 音なき雷。

 名もなき英雄たち。

 そして、魂を取り戻すための静かなる戦いが、今――始まる。


 海底に、一筋の影が走る。

 伊400から発進した特殊部隊搭乗の“ステルス潜航艇「月読」”が、ゆるやかに水圧に逆らいながら、深海要塞の底部に接近する。


 艇内は沈黙。

 音は、呼吸と心音と、制御装置のかすかな電子音だけ。


「接近完了、目標座標、旧式排気孔直上。外殻損傷部分、補修されていない」


 柳島が顎で合図を出す。

「作業開始! 無音マイクロカッター、展開」


 作業兵が即座に艇外へ。

 特殊スーツをまとい、海中用のマグネット式足場に固定しながら、要塞の鉄壁を、音なく削り始める。

 やがて、静かに一片のパネルが外れる。


「入口、確保。侵入開始」


 部隊は流れるように艇を離れ、無音で要塞内部へと突入した。

 通気管内、内部進行中。


「赤外線センサー、無反応。動力系統古いタイプだな」

「罠は少ないが、逆に……来る者なしと見てる証拠だ」


 真っ暗な通気管内を、ライトも照明も使わず、部隊はゴーグルの暗視機能だけで進行する。


 誰も言葉は発さない。

 だが、息も動きもすべてが、「無音の戦場」に最適化された者たちの所作だった。


 前衛がピタリと止まる。

 手信号が伝わる。


「敵巡回、発見。自律歩哨機×2」


 カタリ、と小さく音がして、隊員が磁性EMPダーツを展開。

 次の瞬間、機械兵は何の音も発せずに崩れ落ちる。


「通路クリア! 進行再開」


 ついに、部隊は中枢階層の“神域ブロック”へ到達する。


 その場所は、まるで現代技術と神殿建築を融合させたような異様な空間。

 金属の壁に、なぜか朱と白の“御簾”を模した模様が施されている。

 それが、恐ろしくも、「陛下を封じる場所」であるという不気味な象徴だった。


「センサー過密、光学遮断粒子、散布」


 隊員がベルトからカプセルを取り出し、空中に放つ。

 粒子が空間の認識を遮り、ステルス効果を最大限に発揮させる。


「最終区画、突破準備」


 だが、そのとき――

 シュウッという機械音。

 壁が開き、機械兵ではない、人間の兵士部隊が突入してくる!


「発見され――ッ!」

「落ち着いて行動だ! 交戦開始!!」


 瞬間、沈黙が破られた。

 パスッ! バンッ! ギィィィン!


 無音銃が火を噴き、近接戦用のサプレッサーナイフが閃く。

 敵兵が次々と倒れていくが、特殊部隊も傷ついていく。


「後衛二名、負傷!  だが突破口は維持!」


 隊長が叫ぶ。

「神域ブロックへ突入! “扉”を開け――陛下を救出する!!」


 爆音と共に最終隔壁が開かれた。

 その奥に……ただ一人、荘厳なる姿の軍服姿で神々しい人物がいた。


「よくぞここまで来てくれた! 日本の子らよ」


 その声は、

 確かに……“天皇陛下”その人の声だった。


 隊員たちは、膝をつき、深々と頭を垂れる。


 柳島が装備している小型無線機からは、伊400からの突入と、雪風の第二波攻撃が開始される報が入っていた。


 ここから、奪還が始まる。

 日本の“魂”を取り戻す、最終戦が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る