第6話:雪風、無双!!

 深海に、光が走る。

 刹那、海上にうねるような衝撃波が響いた。


「雪風、敵艦接近を確認! 敵駆逐艦8隻に囲まれます!」

 オペレーターの声が鋭く響くが『富嶽武夫』艦長は、わずかに口角を上げた。


「囲まれる、じゃない! 反対に奴らを撃破する!」


 高天原要塞から出撃した伊400と雪風はサンフランシスコ沖に到達すると共に海上を混乱に陥れて大暴れすると共にそちらに目を向かせるという重要な任務を日下から命じられる。


 その言葉が発された瞬間!


 雪風が動いた。

 それはまるで、猛禽が獲物に襲いかかる瞬間のような、鋭く、無駄のない動きだった。


「右舷15度、旋回!  レールガン主砲、前方三番ターゲットに照準!」

「前進機関全開!  5秒後に左急転回、カウンター配置で背面を取る!」

「敵艦から主砲弾接近! だが雪風、反応済み!」


 雪風の船体が舞うように動く。


 まるで自ら意思を持ち、攻撃の意図すら先読みしているかのごとく。

 敵弾の合間を縫うように進み、旋回し、斜めに切り込む。


 副長が声を上げる。

「こ、これは……!?」


 富嶽は前を見据えたまま答える。


「この艦は、“奇跡の艦”と呼ばれた歴史そのものだ! 避けるのではない! 生き残る道を、この雪風は知っている」


 敵の巡洋艦が魚雷を発射。

 しかし、それすらまるで“既知”であるかのように、雪風はその進路から外れ、間髪入れず反撃開始する。


「レールガン主砲、零距離発射!!」


 ズドォォォォォン!!!


 一撃で敵艦が爆散。

 だが、雪風の動きは止まらない。


「右後方より追尾型ロケット接近!」

「カウンター陽電子チャフ放出!  雪風、全速力!  スクリュー角30度、緊急反転旋回!」

 

……もはや、艦船ではない。

 それは一振りの、神剣のような存在だった。


 富嶽が言う。

「……“伊400”が夜の闇を裂くなら、雪風は雷光となってその闇に道を刻む」


 副長が呟く。

「……艦長、これは……まるで“艦が導いてくれている”ような……」


「そうだ。雪風は、何度も死地をくぐり抜けてきた! その魂が、今、俺たちに未来を切り開けと叫んでいる。」


「全砲門、自由照準! 推進機関最大出力! 敵艦隊中央突破! 行くぞ、雪風、“縦横無尽”の名のもとに!!」


 そして、

 雪風は光になった。


 真紅の雷のように、海上を切り裂き、あらゆる方向から迫る敵艦を翻弄し、撃ち砕き、貫いていく。


 敵通信が錯綜する。


「なんだ!? この艦は!? 動きが読めん! こっちの照準が……!」

「回避不能! 回避不能――!!」


 その間も、雪風は止まらない。

 ひとつの攻撃を凌ぎながら次の戦術へ移行し、まるで海そのものと同化したかのように、動き続けた。

 海上にいた敵艦隊は大混乱に陥ると共に雪風単独の攻撃により、半数以上の艦船が海の底に沈んでいったのである。


 “奇跡の艦”は、再び奇跡を証明していた。


 そして、富嶽は静かに呟いた。

「日下艦長、ご覧になっていますか? 突破口は開きました。あとは日下艦長の出番です」


 海底にいる筈の伊400が直ぐ近くにいるような気配がした。


 雪風の雷光が走り抜けたあとの海に……

 日本の未来を託された、もう一つの伝説が、静かにその幕を開けようとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る