039 選択
こちらに向いている腹にあたるじゃばら状の部分が波打っている。さっきの音は反対側の背のほうで
「な、何ですかこれは……? ああ、こんなことがあっていいはずがない! 一体あなたは何だというのですか……」
神父がその場にへたり込む。隣のイタリア男は目を閉じて首を振っていた。
「きれいです」
小夜さんの
あれは『天使』。
そう言わざるを得ない光の存在。
その輪郭はぼんやりとしており、見方によっては宗教画に見るような翼の生えた天使を想像させるし、そうではなくペガサスにも思えてくる。はっきりとはしない光の塊が不規則にその輪郭を変化させている。俺の脳の進化の初期からあるだろう部分が、ひれ伏すようにと命じているようにも感じられた。その
ア・リ・ガ・ト・ウ……
光の存在が俺を見た気がした。
バチッ。
ここは見覚えがある。真っ暗だが
『これまた凄いところに呼ばれてしまいましたねぇ』
『トモダチ! トモダチ!』
地面などないはずなのに着地してぼやく先生とは対照的にその背で
彼が俺の手を取る。その手にはふつうの人間の温かみがあった。身体がふわりと浮かぶ。彼に導かれるように向かう先は、青く美しい俺達の故郷の星。とんでもない速さで飛行しているはずなのに風圧も重力も一切感じない。後ろを見るとライチョウ先生が相棒を乗せて優雅に飛んでついてきている。青い海に青い空、見事な自然を見下ろしながら飛んでいる。しばらくすると広大な平野が広がる。あれは
彼が俺のほうを振り返って笑う。その先に見えてきたのはパルテノン神殿。俺が記憶で見た完成したばかりで新しかった建造物は長い時代の流れによって、もう遺跡そのものだった。たくさんの観光客の姿も見える。あの時見たのとは違い人々の表情は明るく楽しそうだ。彼らのすぐそばを飛行して通過するが、やはりこちらの姿は見えてはいないようだ。子どもたちがはしゃぎ、恋人たちが愛を語らっている公園。
海を渡り、色彩豊かな建物が見える大きな島を通過した頃、一転して厚い灰色の雲が空を覆う。遠くに砂漠が見えてきた。エジプトだろうか、はっきりとは分からないがあれはピラミッドなのだろうか。そこから左へと彼に引かれて
さらに彼は右へと方向を変えた。そこは破壊された建造物だろう、
彼が俺の手を握る力が強くなった気がした。そして
「これは、俺があの壺を壊したせいなの?」
俺の口から思わずそんな言葉がでてしまった.
あの壺から感じたのはこの戦場から感じる気配と同種のものだった。あのとき飛んでいったどす黒いものが、きっと世界に拡散されたのだろうということを、俺は
彼は俺を振り返り、空中に静止した。そしてゆっくりと首を横に振る。
そして俺をやさしく抱きしめた。
『人類ハ・皆・選択スル。無数ノ選択。ソノ結果ガ・未来ヲ・ツクル。人類ノ・選択ノ・結果。ソコニ・善イ悪イハ・存在シナイ』
バチッ。
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