038 羽化
「おっ、おお!?」
虫かと思って
「ま、禍津神……、なのか?」
こぶし大サイズになった俺の相棒が、その穴でしかない目、鼻、口で不思議そうな表情をつくって俺を見上げていた。その頭部側面から無数に生える右腕はわしゃわしゃと動いているのだが、なぜかペットの犬がご機嫌に尻尾を振っているのと同じ様に俺の目には映っていた。
『オデ、トモダチ。アレ、トモダチ?』
「えっ?」
『オデ、トモダチ。アレ、トモダチ?』
禍津神が繰り返す。アレか……。うん、そうだな。
「彼は俺の大切なトモダチだった。いや、トモダチだ」
『カレ、トモダチ。オデ、トモダチ』
そう相棒は言ったかと思うと消えてしまった。
「な、何ですか!? これは?」
神父の慌てる声が聴こえてきた。その方向を見ると壺がイタリア男の手を離れて浮き上がっていた。壺の下には禍津神がいて、逆さになって持ち上げているようだった。浮き上がる壺をなんとか抑え込もうとする二人。
『キミトくん、私もいますからね』
すっと上空から白いものが高速で飛んできたかと思うと壺をさらってしまった。あれはライチョウ……先生か。禍津神はライチョウ先生の背の上に乗っているのが見えた。そして俺に向かって飛んできた。
「あわっ!」
落ちてきた壺をなんとかキャッチした。
これは間違いなくヤバい
「おお、キミトさん。その壺はたいへんに貴重なものでございますれば、どうぞこちらに」
神父は俺がこの壺を取り返してくれたと思っているらしい。イタリア男がこっちに歩いてくる。
これが……、この壺がすべてを狂わせたんだ。こんなものさえなければ彼も……。
俺は壺を二人によく見えるように笑顔で掲げる。
そして……。
地面に思いっきり、叩きつけた。
壺は粉々になり、黒く禍々しい雰囲気のモノが空へ何本もの筋となって伸びていく、それが上空でさらに枝分かれして四方八方へと拡散していく。
「な、なんということを……」
「イエ……、コレハ、好都合カモシレマセン。予定ガ早マッタノダト考エマショウ」
二人は俺に怒ることもなく空を見上げていた。
俺の足元の壺の破片は、それ自体がその黒い
何だ?
彼は羽ばたきを止めてしまったが、空中に静止したまま浮いていた。その強固で硬いはずの外皮がどんどん崩れていく。
俺がそう心配すると同時に、様々な昆虫のパーツの
「おおっ、なんとあの姿は完全体ではなかったというのですか! 素晴らしい! やはり『審判の日』は間近なのですね。さてさてどのような破壊神が現れるのか」
神父が何かひとり叫んでいる。目をこする俺の前にあったのは巨大な『
「先生、あれは一体何なんだよ?」
『いえ、私にもまったく……。あの
『トモダチ……』
ちび禍津神のその言葉が、ミシミシという音でかき消された。
「何かが出てくるわ!」
「あれは……」
沙也加と小夜さんの言葉に、先生と禍津神を見下ろしていた俺は顔を上げた。
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