第21話 ひらめいたわ!
「でも、そんなに都合よく、若手の職人から練習品を買い取ることができるのかしら?」
「そこに関しては、交渉次第ですよ、お嬢様」
ロレンツォが得意げな顔で右手の人差し指を立てる。
「メリットがあれば、彼らだって商品を売ってくれます」
「練習品を買い取ってくれるだけでも助かるとは思うけど……きっと、他にも買い取りたい人はいるわよね」
ラウラ以外にも、同じように考える商人は多いはずだ。だからといって、他の商人に勝つために支払う金額を高くするのは本末転倒である。
「そこは、遠慮なく私を利用してください」
「ロレンツォを?」
「ええ。この取引はテストも兼ねていると、そう言ってやればいいんです。評判がいいようなら今後、完成品に関しても取引をすると」
そう言って、ロレンツォはにやっと笑った。不敵で、いきいきとした笑顔だ。
「私と取引をしたがる職人は多いんですよ。主な顧客は富裕層ですし、私が取り扱うこと自体が、その商品の品質を保証していますから」
つまり、ロレンツォ自体にブランド力があるという話だろう。
やっぱり、ロレンツォってすごいのね……!
「そうすれば若手の職人たちは、こぞって質の高い練習品をくれるはずです。しかも、安価で」
「……なんかちょっと、狡いような気もするわね」
「商人なんて、狡いくらいがちょうどいいんですよ」
◆
「……どうしようかしら?」
何も書かれていない羊皮紙の前で、ラウラは頭を抱えた。
今考えているのは、どのような形で商品を販売するか、である。
「どこかの店においてもらう? それとも、わたくしが店を開く? でも、そうすると初期費用がかなりかかるわよね……」
ロレンツォに頼めば立派な店舗を用意してくれそうだが、さすがにだめだ。
ここまで手を貸してもらったのだから、後は自分でやりたい。
「そうだわ! 路上で売れば、お金もかからないわ。それに、お客さんも気軽に見ていけるし」
港には、路上販売を行っている商人も多い。布を広げて、その上に商品を並べるのだ。
安価な品物を扱うなら、それで十分だろう。
「ただ、路上で扱うとなると、イメージが下がるわよね」
港には、高級な品物を扱う立派な構えの店もたくさんある。ショーウィンドウの外から店内を覗いて、陳列された品の数々に見惚れる人は多い。
たとえ同じ品物だったとしても、路上に並べられている品より、店に並べられている品を特別に感じるはず。
買ってくれる人にとって、希望になるような品を売りたい。
だから、特別感は少しでも多い方がいいのよね。
お金をかけずに、特別感を出す。なかなかに難しいことだ。
でも、考えるのは楽しい。
「お嬢様」
部屋の扉がいきなり開いて、ロレンツォが中に入ってきた。
「ロレンツォ! いつの間に帰ってきたの?」
「もう夕食の時間ですよ。お嬢様がおりてこないから、迎えにきたんです」
「え!?」
慌てて窓の外を見ると、もうすっかり暗かった。いつの間にか、かなりの時間が経っていたらしい。
「頑張るのはいいことですが、あまり根を詰めないように」
「ありがとう、ロレンツォ。でも、頑張りたいの」
「それも分かってます。頑張るお嬢様は、すごく魅力的ですよ」
微笑んで、ロレンツォがラウラの頭を撫でた。
わたくしが撫でられるのが好きってこと、バレちゃったのかしら。
子供っぽい、って思われていないといいけれど。
子ども扱いされるのは嫌いじゃない。だけど、子供のように思われたくはない。
我儘だとは分かっているが、ラウラの正直な気持ちだ。
「でも、忘れないでくださいね。私は、頑張らないお嬢様も素敵だと思っていますから」
「……なにそれ?」
「どんなお嬢様でも、無条件に大切だという話です」
とろけそうなほど甘い目で見つめられる。恥ずかしいけれど、もったいなくて目は逸らせなかった。
「さあ、夕飯にしましょうか」
ロレンツォと食べると、どんな食事も美味しく感じる。少し前にちょっと苦手な味付けの肉料理があったけれど、それも美味しかった。
誰と一緒にいるかって、すごく大事よね。
……この考えって、商売にも活かせないかしら?
「ひらめいたわ!」
「お嬢様?」
「品物そのものじゃなくて、品物を買うっていう行為自体を楽しい思い出にするの!」
「買う行為自体を?」
「ええ。つまりね、ロレンツォ……」
楽しくなってきて、どんどん声が大きくなってしまう。
ロレンツォが優しく頷きながら話を聞いてくれるからだ。
「お祭りを開くのよ!」
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