第25話 一条カスミの決意

 「お前は私の兄さんを・・・!絶対に許さない!!」

 

 カスミは怒りに満ちていた。何故ならカスミの大切な人を奪った者は神条神作なのだから。実はカスミには一人の兄がいた。その人は誰に対しても優しく、気配りの出来る人だった。勿論霊に対しても。沙月と同じように悪霊は裁き、善良な霊に対しては救ってあげたいという気持ちを持っていた。その行動はカスミにとって尊敬に値する素晴らしい人であった。しかし、今目の前にいる神作の手によって殺されたのだ。

 

 『どうした?そんなに怒る事はないだろう?弱い君を庇って彼は死んだのだから。』


 神作はカスミの事を弱虫だと信じ込んでいた。何故ならカスミは神に愛されているというのに、神に愛されていない兄よりも弱かったからだ。その為今目の前にいるカスミに対して冷たい視線を送り、ため息をついた。


 「お前のせいで私の霊に対する価値観は変わってしまった!お前は神条家という神聖な一族に泥を塗った!!だから今ここでお前を倒す!!」


 カスミは霊鎮の術の構えをする。霊鎮の術その9・禁呪の封魔を繰りだそうとしていた。しかし神作は詠唱もせずに赤く太い閃光・朧破の滅光をカスミに負わせた。


 「痛った・・・!なぜ詠唱もなしに・・・!」


 『そんな事決まっている!霊体だからだ!お前と違って僕は体力の底が見えない!それに加え僕には豊富な知識があるからさ!!』


 神作は今まで数々の霊能力者を見てきた。それを元に自身の術を磨きあげてきた結果詠唱もなしに無限に術を撃てる体へと成り変わったのだ。


 『一つ教えてやろう。あのマンションを創りだしたのはこの僕だ。そんな事にも気づかない霊能力者は馬鹿だな!僕のてきとうな嘘にまんまと騙され、戦争がどうとか相談のってきて。・・・本当にうんざりだった。どうでもいいだろう、そんな事。こんな廃れたスポットで苦しみ続けている霊もさっさと成仏すればいいのに。』


 その瞬間カスミの怒りが頂点に達した。カスミから漂う真っ黒なオーラが辺りを包み込み、周囲の木々や草花が震えだす。


 『おお!そこまで達したのか!よく頑張ったね!でも終わりだ。君の兄と同じ技を喰らわせてあげるよ。さようなら、一条カスミさん。』


 神作は成長したカスミに関心を持ちつつも最強の封印技、禁呪の封魔をカスミに喰らわせた。そしてカスミはその罠にまんまと引っかかってしまったのだ。


 『あーあ、やっぱり僕を楽しませてくれる人は沙月しかいないなー。さてと島へと戻るか。』


 神作は鉄で覆われた鳥籠に背を向け歩きだした。しかしその瞬間鳥籠の中からカスミの詠唱が聞こえてきたのだ。それも10個の術全部を混ぜて使うつもりだ。


 『自殺行為だね。肉体が破裂して死ぬのに馬鹿だなぁ。』


 ガンガンと鳥籠の中から聞こえてくる。しかししばらくすると音が消えてしまった。カスミの息が絶えたのだろうか。


 『仕方ない。中の様子を見てみるか。完全に死んだか分からないし。』


 その鳥籠に近づく神作。すると突然鳥籠の上に黒く丸い物体が現れた。それは神作ですら見た事のない技だった。


 「私があれから修業していないとでも?あの日からずっとお前を恨み続けてきた。これは憎悪を高めた結果自身の命と引き換えに生みだす事に成功した技だ!!」


 鳥籠の中からカスミの声が聞こえてくる。その技は渾沌の神の力を授かり全ての術を掛け合わせる事で到達するカスミだけが使える技・漆黒の深淵(ブラックホール)だ。


 『ブラックホールだと?笑わせるな。なにも起こ・・・す、吸い込まれる!!』


 神作はその黒い球体にどんどん引き寄せられていった。まずいと思った神作はなんとか抵抗しようと攻撃の術を連発するが、全く歯が立たず最終的に情けない声をあげながら吸い込まれていなくなった。


・・・


 「・・・狩突き!!やったよ・・・兄さ・・・。」


 カスミは鳥籠の中から狩突きを使って抜けだした。しかしカスミもまた限界に達しており外に出る事が出来たのはいいもののその場で力尽き、これから先目覚める事はなかった。


 『さようなら、早苗さん、沙月さん。』


・・・


 一方沙月は既に三階を踏破していた。しかし目は暗くもう誰が来てもその心を癒す事が出来ない状態となっていた。というのも三階には善良な霊しかいなかったのだ。それが逆に沙月の心を蝕む事となった。


 「もう、どうでもいいや。霊達は私が全部倒す。さようなら。」


 沙月はぶつぶつ呟きながら全ての部屋の霊達を消していった。

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