第24話 第三階第一号室~失われた夢~
第二階最終号室を出た沙月は第三階へと向かう為に階段を昇っていた。
「しきたりも3日目・・・。今日中に三階を踏破しないとまずいかも。急ごう。」
神作にきっぱりと言われた「生身の人間が生身の人間を術によって救う事は出来ない。」という言葉に少し暗い顔をしながらも歩みを止めず、第三階第一号室の前へと立つ沙月。すると扉越しになにか声が聞こえてきた。男と女の霊が喋っているのだろうか。気になった沙月はその扉を開けた。
『わっ!びっくりした。って、霊能力者さんか。珍しいね。』
『あぁ、まさかここまで来るなんて。』
二人の霊は沙月の存在に驚いていた。何故ならこの二人の霊は早苗とカスミ、そして今来た沙月の三人しか見た事がなかったからだ。
「あの、扉を開けようとしたら声が聞こえてきて気になったので入ってきました。なにかあったのですか?」
沙月は二人の会話が気になり質問する。するとその霊は話し始めた。戦争によって結婚出来ず息絶えてしまったという事に。
「・・・なるほど。それはとても辛い事ですね・・・。なにか手助け出来ればいいのですが。」
沙月は今までの部屋を通して霊鎮の術の可能性が無限大だと感じていた。その為結婚出来なかった二人を見捨てる事が出来なかったのだ。
『気持ちは嬉しい。でも手を出さないでくれ。こんなに呪われたマンションで祝い事などしたくない。』
『そうね・・・。こんな廃れた場所より花畑が広がった美しい大地でやりたいわ。勿論幻ではなく、実在する場所で。』
二人は式を挙げる事をほとんど諦めていた。一方沙月も幻覚を見せる事でしか幸せに出来ない為考え込んでいた。手を出す事で二人を不幸にさせる可能性があったからだ。その為今回はなにもせずに出て行く事が正解だと自身の心に決めた沙月。
「分かりました。本来霊を助ける事が目的で今までやってきましたが今回はなにも見なかった事にします。では失礼・・・。」
沙月はそう言いかけた。しかしその瞬間誰かも分からない声が脳内に響いてきたのだ。
───沙月よ。私は秩序を重んじる神です。何故悪霊を倒さないのですか?もしかして情がうつってしまったのですか?沙月、貴方に与えた力を無駄にするのですか?この二人の霊は悪そのものです。今すぐにやらないのであればこの私自らが手を下します。そして心に刻みなさい。貴方の行いは間違っていたのだと。───
なんと沙月の中に眠っていた秩序の神が初めて沙月に対して語りかけてきたのだ。それと同時に神聖な力が沙月を覆い、勝手に術の構えをした。
「・・・!二人共!!今すぐに逃げてください!!そうしないと貴方方は跡形もなく吹き飛びます!!」
沙月は秩序の神の力に恐れていた。こんな簡単に体が乗っ取られてしまうという事に今気づいたからだ。しかし状況は既におそかった。いつの間にか沙月の周りには幾万の針が浮いており、二人の霊を突き刺そうとしていたのだ。
『ひっ!貴方は一体・・・!!』
『や、やめろ!!』
二人の霊は急いで逃げる。しかし次の瞬間二人の霊は穴だらけになり、苦しみながら消滅していった。
・・・
「あぁ・・・なんて事を・・・。」
沙月は助けたかった霊を助ける事が出来なかった。するとまた秩序の神が語りかけてきた。
───沙月、ありがとう。私に身を委ねてくれて。・・・霊など必要のない存在なのです。霊は時に人に向けて牙をむきます。それははるか昔から行われてきた呪いです。もし貴方が今後の部屋で霊を討ち滅ぼそうとしないのであれば今回のように私自ら天罰を下します。分かりましたか?神の力を持つ者よ。───
秩序の神の言う事は必ずしも間違っていなかった。今の日本本土で起きている事。悪霊の行うそれは絶対に許されない事であり、消滅させるか封印する事で罰を与えなければならない。しかし沙月は秩序の神に対してそんな考えは間違っていると思い、怒りを露わにした。
「ふ、ふざけるな!!秩序を重んじるのであれば、善悪の区別くらい分かるはずだ!今の二人は負のオーラを纏っていなかった!攻撃するという動作も見せなかった!何故分かるかって?それは私が今まで身をもって経験した事を活かして頭をフル回転させ、悪ではないと思ったからだ!貴方はそんな慈悲の心がないのか!!」
沙月の意見もまた間違っていなかった。今まで体験してきた試練。それは沙月の成長を高める為に贈られたもの。早苗の『悪霊は絶対に許してはいけない。』という言葉を身に刻みつつも善良の霊を助けると心から誓っていた。その為今回秩序の神がした事は沙月が許さなかった。
───・・・そうですか。今やっと分かりました。沙月、貴方に力を与えたのが悪かったという事に。霊が生まれる原因を知っていますか?貴方を含めた人間がいけないのですよ?人間はすぐ争い、負の感情を生みだす。諸悪の根源は人間そのものなのです。そんな醜い生物を討ち滅ぼす為に私達神は存在しているのですよ。私はその気になればこの世界を消滅させる事だって出来ます。もし今後また同じような事を発言するのであればこの地球上にいる全ての生物に天罰を下します。数多の自然災害が貴方達人間を殺すのです。言っている事が分かりますね?貴方達は私達にとって許されない存在だという事に。ではまたお話ししましょう。さようなら。───
そして秩序の神の声は聞こえなくなった。それと同時に沙月の助ける行為が世界滅亡の危機に陥れる素材となったのだ。
「なんで・・・!そんな事をしたら皆から幸せを奪ってしまうというのに!!」
沙月は秩序の神の恐ろしい考えに落胆していた。これから先の試練で必ず霊を倒さないといけなくなったからだ。もうこうなってしまっては全ての霊をこの世から抹消するほかない。常に明るい光を放っていた沙月の心は徐々に暗くなっていった。
・・・
一方その頃一条カスミは心霊スポットを既に20個以上攻略していた。すると突然背後から威圧的なオーラが彼女を襲ったのだ。
「これは・・・。恐ヶ島からだ!もしかして沙月、貴方の力なの・・・!?」
カスミは今まで感じた事のない悪寒に襲われた。空はいつの間にか分厚い雲によって暗くなり、土砂降りの雨が降りだす。
「まずい!!早く沙月を止めないと大変な事になる!!」
これは全てカスミの勘だ。常に神条家と共に行動してきたからカスミは沙月を覆っているオーラが強大であると同時に危険だという事を知っていた。そして今、快晴だった空が急に土砂降りの雨へと成り変わった事により沙月の中に眠る神が引き起こしたのだと気づいたカスミは日本本土の悪霊よりも沙月を止める事を優先した。
しかしカスミの大切な人を奪った霊がカスミの前へと立ちふさがる。
「お、お前は!!」
『ふん、沙月の元には行かせない。ここでお前を殺しさえすれば僕は沙月と心おきなく戦えるからね。』
そう、その霊とは神条神作だった。
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