第23話 第二階最終号室~肉体の変化~

「怖い・・・!どうしちゃったんだろう私!」


 沙月は二階最終号室の扉を押し開け、神作がいないか周りを見る。するとタイミングよく神作が壁をすり抜け挨拶してきた。


 『やぁ、沙月。また会ったね。』


 「し、神作さん!私の体がおかしいんです!なんかこう・・・体が勝手に動いているというか、なんというかおかしいんです!!」


 沙月は軽いパニック状態に陥っていた。何者かに操られているのではないかという恐怖に。その様子を見た神作はやはりかという顔をしながら話しだした。その症状について。


 『沙月は知っているかい?神は二種類いるという事に。』


 「えっ、・・・分からないです。」


 『そうか。それならば話そう。実は神には秩序を重んじる神と渾沌を司る神がいる。秩序の神は常に安定を保ち続け、悪を必ず滅ぼす思想を持っている。逆に渾沌の神は常に非常事態を引き起こしたがる。君についている神は前者。つまり秩序の神の恩恵だ。井戸の部屋で一部始終を見させてもらったがあれは悪霊を裁く為に神が勝手に沙月の体を操作したんだ。危険な場面だったからね。』


 沙月はただただ驚いていた。前に神に愛されていると言われてから意識はしていたが、秩序の神が自身の体を使って悪霊を裁いていた事に。


 「という事は私の悪霊を倒したいという意思がその神様に反映されたという事ですか?」


 『そうとも取れるね。しかしその状態は実に危険だ。何故なら無差別に攻撃してしまう可能性が出てきたという事だからね。うまく制御出来ないとただ成仏したい霊に攻撃をしてしまう。そんな事は沙月、君自身が一番嫌に思っているはずだ。』


 「・・・はい。善良な霊は絶対に助けたいです。でも今気づかない内に攻撃していた事は事実です。これからどうすればいいですか、神作さん。」


 沙月は自身の肉体の変化に不安な感情を抱いていた。これから先秩序の神の精神に浸食されてしまうのではないかと。一方沢山の霊能力者を見てきた神作もここまで強く肉体が変化しつつある状態の人を見た事がなく困惑していた。しかしそれと同時に強い高揚感に襲われていたのだ。


 「神作さん・・・?」


 沙月は神作の顔が笑っている事に疑念を抱く。それに驚いた神作は気を取りなおして話を進める。


 『この筋は間違っているかもしれないが聞いてくれ、沙月。もし無差別攻撃を繰りだしたくないのなら強い信念を持つ事をおすすめする。神すら恐怖する程の強き心があれば、秩序の神の力を最大限に引きだせるかもしれない。実際に十年前に来た一条カスミにも、神の加護が薄くだがついていた。彼女についていたのは渾沌の神であり、いつ暴走してもおかしくなかった。しかし彼女自身の悪霊を討ち倒す正義の気持ちが強く根づいていたお陰で加護を最大限に引きだす事に成功していたんだ。』


 「えっ、カスミさんが!?初めて知りました。カスミさんの体から神々しいオーラが出ていなかったので・・・。」


 『厳密に言うとオーラは出ていた。しかしそれは漆黒のオーラ。沙月と違って輝いていなかったから分からなかったのだろうね。』


 カスミの性格は渾沌の神の思想に似ていた。しかし悪霊に大切な人を奪われた事がきっかけでどんな霊に対しても躊躇せず成敗していた事もあり、渾沌の神はその行いに喜びの感情を持ったのだろう。


 「なるほど・・・。とりあえず私の体の変化に気づけて良かったです。私はこれから先も可哀想な霊の心を癒す事を第一に動きます!」


 沙月の決意は神作の助言によってさらに強くなり、神作も納得した表情を浮かべていた。そして最後にもう一つ聞きたい事があると沙月は神作について言った。それは、


 「私の母さんは霊鎮術で助ける事が出来るのですか?」という事に。


 その言葉を聞いた神作は少し悲しい顔をした。


 『残念だけど霊鎮術は肉体のない魂、つまり霊にしか通用しないんだ。もう既に経験したと思うんだけど、元霊能力者の霊は生身の霊能力者に攻撃出来る。しかしどちらも生身の人間だとお互いの攻撃は無効化してしまうんだ。これから編みだしていく技であってもそれは絶対に変わらない。』


 「・・・そうですか。もう一度聞きますが、霊鎮術を扱える霊能力者は40歳以内で死んでしまうんですよね。」


 沙月は暗い顔をしながら訊く。


 『そう。それは絶対に変わらない。僕達はその人が死んだら天へと送りだす。それが役目だからね。』


 「分かりました。でも絶対に母さんを死なせたくないので頑張ってこのマンションを踏破し、新しい技で救いだします!!これだけは絶対に諦めたくないので!」


 沙月の決心は鈍らなかった。そんな顔を見た神作は頷き、頑張るよう沙月に促した。


 『さて、もう質問はないみたいだね。ではまた上の階の最終号室で待っているよ。』


 「あ、ちょっと待ってください。何故貴方は成仏しないのですか?」


 『あぁ、言い忘れていたね。ただのお人好しさ。この試練を頑張る仲間を応援したくてね。だから何百年もこの地でアドバイスを送っているのさ。では。』


 そう言うと神作はフッと消えた。


 ・・・


「・・・これからは私に宿る神とも向き合っていかないとね。頑張って踏破するぞ!」


 沙月は強き心を持ちながら第二階最終号室をあとにした。

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