第18話 第二階第六号室~憫笑する能面~

 時は早朝。いつの間にか寝ていた沙月は目が覚める。

 

 「うわっ、朝じゃん!急がないと・・・!!」

 

 しきたり3日目が今始まろうとしていた。まだ二階で止まっている沙月は残りの期限が近づいているのを感じ取り、リュックを背負って次の部屋の扉の前へと急いだ。


 「そういえばこの階に来てから、術を連発していた・・・。新しい技も繰りだして体も疲れていたのかな。でもぐっすり眠ったお陰で体は快調だ!頑張ろう!!怖いのは出ないでくれ~・・・。」


 沙月が扉を開くとそこには和室が広がっていた。こけしの部屋の事を思い出した沙月は一瞬にして体が青ざめる。


 「ひっ!また和室・・・。なにがいるんだろう・・・。」


 すると沙月の頭上から脅かす声が耳元にきた。


 「うわぁ!!って能面だ!!シンプルに怖い!!」


 『へへへ。これは余興だ。』


 その能面は沙月を脅かすと同時に部屋中を駆け巡る。そして複数体に分裂した。


 「な、なにをするつもり・・・!?」


 『なにってただ霊能力者をいたぶるだけさ。貴様はあの神条家の一人だな?それに加えて神々しいオーラを放っているという事は我らの攻撃も効かない。』


 その能面達は沙月の秘められた能力を一瞬にして見抜いていた。それに気づかれた沙月はまずいと思い、すぐに霊鎮の術の構えをする。しかし、その構えを見た能面はただ笑って見ていた。


 「複数いるから・・・。あの技しかない!霊鎮の術その3・朧破の滅光!!」


 沙月は間髪入れずに能面達に向かって赤い閃光を放つビームを撃つ。この技は霊鎮の術の中でも一番の攻撃力を持っていた。


 「やったかな!?」


 沙月は能面達に攻撃が当たったと感じた。しかし一つだけ違和感があった。それはこの技を喰らうといつも霊の叫び声が聞こえてくるというのに今回は全く聞こえてこない事だった。それに気づいた沙月はキョロキョロと部屋中を見るが能面がいない。


 『どこを狙って撃っている。それじゃあ我には当たらない。何故なら、超合金を身に纏っているからな!!』


 能面はただの仮面ではなく素材が超合金で出来ていた。その為沙月の放った一撃を反射しどこか別の場所に飛ばしていたのだ。


 「それなら・・・掛け合わせで・・・!」


 『させないぞ。』


 能面から赤いビームが放たれる。それはまるで朧破の滅光のように力強く、当たるとも思っていなかった沙月の手をはじいたのだ。


 「痛い!!なんで・・・!?」


 『貴様は知らないのか?戦う相手が元霊能力者の場合、霊鎮の術が当たるという事に。』


 「えっ!?」


 沙月は知らなかった。昔母親から教わったはずだが、いつも恐怖に怯えて忘れていたのだろう。その事を今、身を持って知った沙月は襲われる恐怖に支配されつつあった。


 『どうした。逃げるのか?』


 「・・・逃げたりしない!君は何者なの!その技を見る限り生前霊能力者だったと思うんだけど!」


 『へへっ、ご名答。我はこの試練にて死んだ霊能力者だ。我は凡人で貴様のような優れた霊能力者にはなれなかった。だから今の時代この地に来る霊能力者に対し怒りをぶつけているだけよ。勿論貴様の家系、神条家も何人か殺した。』


 能面はいつも笑いながら霊能力者を殺戮していたという。その言動に沙月は怒りに満ちた表情をした。本来霊を天へと導く為にある者が人間を痛めつけていたからだ。


 「許さない・・・君・・・いやお前を完全に抹消する!!」


 『出来るかな?攻撃無効、防壁召喚・・・いわば無敵の我に歯向かってみるがいい。』


 能面が沙月の事を挑発する。それと同時に沙月の周りに青白いオーラが立ち込めた。そしてそこからは一瞬だった。沙月は目にも止まらないスピードで二つの術、無双の極意と禁呪の封魔を掛け合わせ、新しい技を生み出す。その名は


 「冥府の滅消(めいふのめっしょう)」


 この技はなにもない場所から鋼鉄よりも強靭な壁を創りだし相手の霊を圧死、すなわち今後一切その魂の審判が行なわれないようにする技だ。


 『ば、ばかな!そんな早く術を繰りだす事など!』


 「お前は知らないだろうね。私が神に愛されている事に。」


 『っ、ふざけるな!!我も早く術を繰りだ・・・ガハッ、お、重すぎる!!』


 両端から襲いかかってきた壁は鋼よりも強靭な合金を持ったとしても押し返す事が出来ず、最後にグシャッと音を立て、消え失せた。


 「油断したのがお前の敗因だね。さようなら、裏切り者さん。」


 沙月は能面の苦しむ姿を見る事もなく、扉を開け部屋を出て行った。

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