第16話 第二階第四号室~黒い炭~
「次の部屋はどんなのが広がっているんだろう。」
沙月はドキドキしながら第四号室の扉を開ける。するとそこには黒ずんだ死体が何体も転がっており、顔を識別出来ない状態で放置されていた。
「うっ・・・!これって核爆弾によって焼かれた人だ。埋葬されずにずっとここに放置されていたんだ・・・。」
沙月は不思議と怖さを感じていなかった。きちんと成仏出来ていない何体もの死体を見て、成仏させてあげたいという情が沸いたからだ。
『熱い・・・。熱いよ。』
『ギャァァァ・・・。』
核爆弾の犠牲者の悲鳴が聞こえてくる。その惨状はまさに核爆弾によって地獄の苦痛を強いられた人達の叫び声。この部屋を見た歴代の霊能力者は直視出来ず、その場を封印する事でしか救う事が出来なかったのだ。
「・・・失礼します。勝手ではありますが貴方方の過去を教えてください。お願いします。」
沙月は横たわる死体の隣に座り、霊が出てくるのを待った。ただその気持ちを受け止める為に。すると死体から次々と霊が出てきて悲しそうな顔をしている沙月の周りを囲んだ。
「貴方方を見てすぐに分かりました。核爆弾の犠牲者だと。そして霊能力者に助けを求めたという事も。良かったら教えてください。貴方方を救いたいのです。」
『・・・その気持ちを持ってくれるだけでも嬉しい。皆俺達の惨い姿を見て逃げてしまったから。20年前に来た女の人も手を尽くしてくれたが結局救う事が出来なくてごめんなさいと謝ってきた。もうこの世には俺達を救ってくれる人がいないんだ。』
霊達は暗い顔をしながら語る。焼け焦げた自身の体をみながら。そんな姿を見た沙月は胸に手を当て、絶対に救いだすと誓った。
「私にやらせてください。お願いします。」
『君になにが出来るっていうんだ。神でもないのに。』
「うっ、それは・・・。」
沙月は自身の口から救いだすと言ったはいいが、どうすればこの霊達を助けられるのか分からないでいた。それもそのはず。今まで使ってきた霊鎮の術は強制的に成仏させる技だったり、攻撃に特化した技だったり・・・。どの術も今この瞬間に合っていないからだ。沙月は頭を悩まし考え込む。
『やっぱり無理だよな。もういい、出てってくれ。俺達はまたこのまま薄暗い部屋で苦しむ。』
「あ、ちょっと待って・・・。」
沙月はその小さく感じた背中をただ見る事しか出来なかった。それと同時に自身の力が及ばない事に悔やんでいた。そして、霊達が自身の体に戻っていくと同時だったか。沙月はなんとかして救おうと声を掛けその背中を止めた。
『・・・無理なのは分かっている。俺達は火に炙られその記憶すら消せない。生身の君がどうする事も出来ないという事も。だからもういいんだ。ここで苦しみ続ける事が目的だったんだ。』
「そんな事言わないでください!私がなんとかしてみるって心に決めたのに、何故その言葉でさえ聞き入れてくれないのですか!!」
『逆に聞くが、この酷い姿を見て何故清々しい顔をしていられる。馬鹿にしているのか?』
沙月は霊達を怒らせてしまった。自身を悲観する霊達は健康に生きている沙月に苛立ちを見せたのだ。そしてどんどん殺気が高まる霊達。それはもう悪霊に成り変わる瞬間であった。
「・・・私に秘策があるのです。今までは術を一回撃ったらもう一度撃つまで時間がかかってしまった。でも今なら出来る気がするのです。新しい術を生みだす事に!!だから試させてくれませんか?」
『俺達を使って試すだと・・・?まるでカトの人間のような物言いだな。だがお前の目が本物だと分かった。だから一回だけ待ってやる。やってみろ。』
「・・・ありがとうございます。では行きます。」
沙月は右手に不滅の鎖の術を宿す。この技は強力な為、溜めこんでいる間右手の関節が悲鳴をあげていた。しかし沙月はそんな激痛を気力を振り絞って我慢し、左手に別の術を宿すよう脳から命令を送る。するとなんと左手にも術が宿ったのだ。今まで霊能力者は右手のみでしか術を繰りだせなかったというのに沙月はそれを可能にしてしまった。
「これなら・・・いける!!!」
沙月は左手に操神の震威の術、右手に不滅の鎖の術を宿し広がっていた両手を合わせ、技の融合に成功した。それを感じ取った沙月は技名をつけ霊達に放った。その名は
「久遠の安寧(くおんのあんねい)」
この技はその名の通り永遠に幸せに満ちた空間を創りだすといった技だ。その技を受けた霊達は戦争によって離れ離れになってしまった大切な人と再会し、核爆弾を受けた苦しみから解き放たれ安らかな顔立ちになっていった。
『お前・・・いや君の名前は・・・?』
みるみる明るい表情になっていく霊達は沙月に対して疑問を抱く。何者なのかと。すると沙月は胸の高鳴りを抑えながらこう言った。
「私は神条沙月。神に愛され、この地に舞い降りた特別な人間です。」と。
この時霊達は沙月が神の姿に見えたという。そしてその影はいつの間にか部屋から消え、幸せな空間だけが広がっていた。
・・・
『まさか新しい術を生み出してしまうとはね。実に面白いな、沙月は。これからの成長が楽しみだ。』
神条神作は沙月の成長を見守り、ばれない場所から沙月の事を見ていた。そして何故かなにか企んでいる顔を浮かべていた。
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