第15話 第二階第三号室~テレビの砂嵐~


「霊鎮の術の反動が大きいけど、まだ行ける・・・!なんかだんだん体も頑丈になってきたかも。さてと、次はなにが待っているんだろう・・・。」


 沙月は体力の増加に喜びを隠せずにいた。神に愛されるとはこういう事なのだと。そして第三号室の扉を開けた。


 「これは・・・なんだっけ。600年以上前の物だよね。確かブラウン管テレビっていったっけ。」


 沙月は初めて見る古き機械に興味をもっていた。そのテレビは厚さ約40センチメートルもあり、画面に手を近づけると静電気によってビリビリと音が鳴る。


 「うお・・・びっくりした。昔のテレビってこんな感じだったんだ。でもこんなテレビになにか霊でもいるのかな?」


 沙月は疑問を抱いていた。しかし沙月は知らなかった。1900年代後半に流行った呪いのビデオという作品に。それがきっかけで次の瞬間怖い思いをする事になる。


 「ひっ!!急にテレビの画面がついた!!砂嵐だ・・・初めて見た。ってあれ、ガサガサって音がしたと思ったらなんか和室の画面が出てきたんだけど!!」


 まじまじと見る沙月。すると障子の向こう側に影が映っているのを発見した。それに驚いた沙月は急いでテレビを消そうとする。しかしアナログ機器を触った事のない沙月は電源ボタンがどれだか分からず、その映像が流れ続ける。


 『ギャァァァァ!!!!』


 「うわぁぁぁぁ!!!!急に叫ばないでよ!!なんか出てき・・・うわっ!のっぺらぼうだ!!!」


 テレビの悲鳴と同時に叫ぶ沙月。その画面に立っていたのは目も鼻も口もないのっぺらぼうだったのだ。沙月は怖さのあまり部屋から抜けだそうとするが、その部屋をクリアしてない為か扉が開かなかった。


 「なに・・・ほんとになに!!これからなにが起こるの!!」


 テレビに映るのっぺらぼうは静止したまま、なにも行動を見せない。しかしそれが逆に恐怖心を沸かせてくる。そして数分間沙月はテレビを見続けていたが、なにも起こらずただ時間が通り過ぎたので気が緩み始め安堵していた。


 「ふう、特になにもないみたいね・・・。怖かった~。」


 『本当かな?前をよく見てみなさい!!』


 「・・・えっ!?ひっ!な、なにこの人!!歯が黒い!!!」


 テレビの横に立っていたその霊はお歯黒べったりという名の妖怪に似ていた。その妖怪とは口が大きく開いており、歯が真っ黒、そして古びた着物を着ている姿をしている。それに酷似していた霊だった。


 「やめて・・・来ないで!!!」


 『えっ・・・ちょっと待って!私は貴方に私の笑顔を見て欲しかっただけ!!なんでそんな涙目になっているの!!』


 「いや怖いんだよ!!なんか噛んできそうだし!!」


 『そんな事しないって!ただ笑顔が素敵と言って欲しいだけだよ!!』


 その霊はただ笑顔を見て欲しかった為に沙月の前に現れた。本質はそれだけだ。しかし見た目が怖すぎた。普通の霊以上に怖さを感じるその風貌は誰が見ても恐怖で固まるだろう。


 「分かった、分かったよ!!綺麗ね、綺麗!!」


 『そんな目を逸らしながら言われても嬉しくないわよ!!ちゃんと目を見て!!』


 「いや目ないじゃん!!見えるのは異常な大きさの口と真っ黒な歯だけだよ!!てかなんで着物を着てるの!!何時代の人!?」


 『えっ?私、江戸時代の人だけど?』


 「はっ?」


 沙月は驚いていた。まさか戦争に関与していない霊がいるとは思っていなかったからだ。それに江戸時代というと今から1000年くらい前の時代だ。そんな前からこの霊は笑顔が綺麗と言って欲しかったのだ。なんだか可哀想になってきたと思い始める沙月。


 『なによ。なんか可哀想って思っているでしょ。』


 「えっ!なんで分かったの!?」


 『顔見れば分かるよ!!ほんと酷い反応するね、貴方は。前来た人は明るい表情で綺麗だよと言ってくれたのに。』


 「・・・母さん、怖いな。」


 『また怖いって言った!!ちょっとこっちに来な!!話そう!!』


 「あ、はい。」


 沙月はその霊が用意した座布団に座り、何気ない会話を始めた。するとどうやらこの霊は生きていた時とても綺麗な顔立ちをしていて男からの人気が凄まじかったという。しかし、その美貌が仇となり犯罪者に無理やり仕立て上げられて、この島まで船で流された。なんとも哀れな話だ。


 「その、貴方は心が綺麗な方なんですね。同じ女性として見習いたいです!!」


 「ふふん、やっと私の美貌に気づいたみたいね!!」


 「いや、顔は怖いです。」


 『まだ言うか!!でも貴方と話せてよかった。千年も一人で寂しかったから。だからさ、神条沙月さん。私を成仏させてくれないかな?』


 「え、なんで私の名前を知っているの・・・?」


 『そんなの女の勘に決まっているでしょう!貴方は早苗さんに似ていた。だからそう言っただけよ。さぁ早く私を成仏させて!!』


 どうやらお歯黒を見せてくるこの霊はお話し出来ればそれで良かったらしい。早苗の時も沢山話をしたらしいが、結局この世界に残ると言って次来る人を待ち続けていたのだ。


 「・・・分かりました。では霊鎮の術その7・清光の微笑み!あ、貴方の顔とても美しいです!惚れました!!」


 『最後の最後まで貴方って人は・・・。でも嬉しいわ!ありがとう!!』


・・・


 「まさかあんなに明るい霊がいたとは。それも江戸時代の。顔は怖かったけど、根が美しい人で良かったよ。さて、次の部屋へと進むぞ!」


 沙月は第三号室の扉を開け、第四号室の扉の前へと立った。

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