第13話 第二階第一号室~笑う皮膚~

「ここが二階・・・。一階の時と違って禍々しい雰囲気を醸しだしている・・・。なんか床がうねうねしていて、歩きづらいし・・・。」


 沙月が二階に上がる階段を抜けると、そこにはそこら中に血飛沫がへばりついていて、人が大勢死んだのだなと一瞬で理解出来た。それと同時に沙月の心はここで死んでしまった人の魂を救ってあげたいという気持ちが働いていた。


 「第一号室、ここね。なにか来ても絶対にびびらないぞ!」


 フラグを立てつつも第一号室の扉を開ける沙月。するとそこには・・・なにもなかった。ただ静まりかえった部屋が広がっていて、家具すらない。果たしてこんな平和な部屋に悪霊などいるのだろうか。


 「おかしいな・・・。一階にはなにかしらのトラップが各部屋に置かれていたのに。」


 沙月は部屋中をキョロキョロ見渡す。しかしなにも起きなかった。


 「あのー!誰かいませんかーーー?」


 大声を出して、霊の存在を確かめる。すると小さな声で囁く声が聞こえてきた。


 『うるさいな・・・。また霊能力者か。今回も懲らしめてやる。』


 その声に気づいた沙月は辺りを見渡すが誰もいない。しかし耳元で憎みの声をあげているその存在を確かめる為に、近くに置いてあった鏡を見る。その瞬間体が凍りついた。なんと、沙月の右頬に人面瘡ができていたのだ。


 「ひゃっ!!怖い!!何者だよ君!!」


 沙月は驚き尻もちをつく。人面瘡とはよく考えたものだ。その理由は古典的ではあるが人を驚かせるには申し分のないものだからだ。


 『びびったな。よし、お前ら囲め!!』


 その人面瘡が大声で叫ぶと、部屋中に散らばった死んだ人の皮膚が沙月に飛びかかり、覆い始めた。


 『どうだ!これで忌まわしき霊能力者を殺せる!さぁ皆よ、幾万もの針をそいつに向けて飛ばすのだ!!』


 その合図と共に、大量の針が沙月の体に襲い掛かる。そして次々に沙月の体に突き刺さった。このマンションはこの部屋で死ぬ人間が多かった。この棘によって無残な死を遂げる霊能力者が後を絶たないほど、恐れられていた部屋だったのだ。それを知っていた人面瘡と霊達は霊能力者最強である沙月という存在に牙を向いた。


 「グッ・・・。なんてね、その攻撃効かないんだよね。何故なら・・・!」


 沙月は棘が刺さる直前にとある技を繰りだしていた。それは霊鎮の術その10・禍払いの結界だ。本来この技は右手を翳しながら唱える事で部屋を囲い、霊の脱出を不可能にする。しかし今回は右手を前に翳さず、自身の心臓に向けて放った。それによって結界を体に纏う事が可能となり、数多なる針を撃ち返したのだ。


 『ば、ばかな・・・!霊能力者は俺達、霊の攻撃をくらうはず!!何故だ!!』


 「それはね、私は神に愛されているから。君達の攻撃なんてかすりもしないよ。」


 『そ、そんな事あり得るはずが・・・。』


 「あり得るんだよね。これは私が編みだした最初の技だけど、うまくいって良かった。さぁ、君達は今から私の手で浄化してあげます。霊鎮の術その6・無双の極意。」


 沙月の体にどんどん青い光が吸い込まれていく。それと同時に、尋常じゃない力が彼女に憑依した。


 『やばい!皆、にげ・・・』


 それはもう一瞬で片がついた。沙月は無双の極意で強大な力を授かった後に狩突きを四方八方に飛ばしたのだ。それにより沙月の体から離れた死肉に棘が突き刺さり、細胞の核が破壊された事で、消滅した。


 「さてと、最後は君だね。どうする?もっと痛いのを喰らわせてもいいんだけど?」


 沙月は狂気の笑みを浮かべながら、人面瘡に右手を翳す。


 『お願いだ!!見逃してくれ!!もう人間に悪さしないから!!』


 人面瘡は必死に助けを乞う。しかしそんな言葉も通じなかった。こんな狂気にまみれた部屋で人殺しを散々して来たのだから。その為沙月は恐ろしい事を考え、それを人面瘡に向けて言う。


 「あ、こういうのはどうだろう?私が成仏に繋がる口笛を吹く事で、成仏が出来るか判定するというのは?これをすれば、安らかに眠る事が出来るよ。」と。


 『お願いします!!罪を償いますので!!』


 その言葉を聞いた沙月はその言葉を承諾し、霊鎮の術その2・幽冥の旋律を唱えた。この技は以前アトリエの部屋で二人に美しい旋律を響かせ、幸せにする事を目的としていた。だが今回ばかりは違った。大量の仲間達を殺してきた罰として不協和音を奏でたのだ。それにより人面瘡は苦しい顔をしながら償え切れない過去を洗いざらいはかされ、沙月にその愚行がばれてしまった。


 『ちょっと待って!話が違う!!』


 「話?あぁ、君は理解してないみたいだね。死んでいった仲間達の苦痛を。だから今君にそれを教えてあげるよ。霊鎮の術その5・幻影の牙。」


 影から真っ赤に染まった牙が出てくる。それも無双の極意によって強化されたものが。人面瘡は許しを乞うたが、結局その牙の餌食になってしまった。


・・・


 「はぁ、マンションに入ってから性格が変わった気がする・・・。悪い霊に対して怒りが収まらないよ。今もやるべきだったからやったけど、なんか胸糞悪い終わり方しちゃったな。これからは感情もコントロール出来るようにしよう・・・。」


 沙月は腫れた右頬を押さえながら第一号室を後にし、次の部屋、第二号室の扉を開けた。

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