第12話 第一階最終号室~神条神作~

 沙月は霊鎮の術が自身の体を蝕むものだと知らなかった。しかし今その真相を知ってしまった事で全く動く事が出来ず、カスミとの約束も守れないでいた。そして時が刻々と流れていく。

 

 「ごめんなさい、母さん、先祖の皆さん。もう私は動けないです・・・。」

 

 うずくまり、心にダメージを負ってしまった沙月。しきたりを中断してもおかしくない程気分が落ち込んでいた。それほど巻物の内容がグサリときたのだろう。すると隣の部屋からなにか声が聞こえてきた。

 

 『神条家の子よ。話をしよう。君の母親を助けられるかもしれない。何故なら私も生前霊能力者だったのだから。』と。

 

 その言葉にハッとする沙月。

 

 「・・・えっまさかそんな人物がこんなマンションにいるはずがない。霊鎮の術を全て言ってみてよ。合っているのなら霊能力者だったと認める。そうじゃなかったらもう私が動く意味はない。」

 

 『分かった。その1・狩突き、その2・幽冥の旋律、その3・朧破の滅光、その4・不滅の鎖、その5・幻影の牙、その6・無双の極意、その7・清光の微笑み、その8・操神の震威、その9・禁呪の封魔、その10・禍払いの結界。合っているだろう?』

 

 「・・・合ってる。」

 

 『良かった。さぁ早くこちらの部屋へと来なさい。まだしきたりは始まったばかりなのだから。』

 

 「はい・・・。」

 

 その謎の人物の声を信じると決めた沙月は絶望という名の重く縛りつけられていた枷から脱出し、第十号室の部屋の前へと立った。その扉はいつもの扉とは違い、城門のようにしっかりとした造りをしており、いざ押してみるとかなり重かった。そしてなんとか体重をのせて扉を開けると、その部屋には青年の霊が笑みを浮かべながら椅子に座っていたのだ。

 

 「えっと君・・・いや貴方は?」

 

 『僕の名前は神条家の祖、神条神也の息子・神条神作。君の大先輩だね。そして、しきたりで命を落とした者とも言える。』

 

 その青年は穏やかな口調で淡々と言葉を発したが沙月は驚きでいっぱいだった。何故なら、その青年は沙月の先祖だったからだ。

 

 「何故貴方がこんな古びたマンションに・・・。」

 

 『それは・・・ここに来る子孫達に神条家の成り立ちを教える為さ。君の母親、早苗にも伝えた事がある。あの子は本当に情熱に満ち溢れた子だったよ。さぁ、長話は置いておいて、語り合おう。まず沙月よ、何が聞きたい?』

 

 「それは勿論、母さんにかけられた呪いについて・・・。」

 

 沙月は早苗の事を命にかえても助けたかった。どんな事をしてでも。

 

 『・・・そう、だよね。君の母を想う気持ちは分かる。それが普通なのだから。しかしその呪いは絶対に覆せない。何故なら、早苗は神に愛されていないからだ。』

 

 神作ははっきりと言った。神作は早苗に会った当時、瞬時にその事について見抜いていたのだ。しかしその言葉は沙月の心に深く突き刺さってしまった。

 

 「そ、そんな・・・。嘘をつくなんて酷いよ、さっき助けられるかもしれないって言ったじゃん。」

 

 『ごめんね。でも彼女には神から授けられた力がなかった。簡単に言うと神々しいオーラが無かったんだよ。君は術を繰り出す時光り輝くオーラを纏っていた。それは神の加護があるからだ。・・・でも早苗にはなかった。この部屋に来た時満身創痍だった。血を吐きふらふらの状態になりながらね。だから、残念だ。僕にはなにも出来ない。』

 

 神作の話によると、神条家で神の加護を纏っていた人物は二人しかいない。それは神条家の祖・神条神也と沙月だけだった。何故その二人だけなのか。その理由は、どちらもこの世に生まれる直前、神に『使命を全うせよ。』と命令されたからだ。神条家の祖・神条神也が生きていた時代はアフリカの貧困による大規模紛争によって亡くなった者が多かった。死者が10万人以上出る程の。それによって憎悪を抱き生きた人間を懲らしめようとする悪霊が生まれてしまった。その脅威を食い止める為に神は神条家という血筋を生み出したのだ。そして沙月の生きている時代は第三次世界大戦から100年以上経った時の事。霊鎮術という仕事が廃れつつある今、悪霊の暴走による事故や事件が絶たない。その事を知っていた神は沙月というたった一人の女の子に力を授けたのだ。

 

 「そんな事、神様から聞いていない!これまで神と対話した事なんてない!!」

 

 『そうだろうね。ただ君の実力は本物だ。神条家は君の代で30代目。この部屋で何人もの子孫を見てきたが、神条家の祖と君以外に霊鎮の術の連続放出を出来る者はいなかった。試した者もいたが一瞬にして体が裂け絶命した。何故そんな事が分かるかって?それは神に愛されていないこの僕が試して、身に起こった事だからだ。だからそんな危険な事を何回も出来るのは、君という存在そのものが神だからこそ成せる技なんだよ。』

 

 「私が神そのもの・・・!?」

 

 『そう、僕の父親に似ているよ。今こうやって対話している最中も神々しいオーラが君を纏っている。』

 

 神作は真剣な顔をしながら沙月に伝えた。沙月が特別な人間であるという事と、これから待ち受ける試練を打破する者だと。

 

 『あぁ、話が逸れてしまったね。これは僕自身の考えだが、早苗を救えるのは沙月、君自身なのだろうと思うよ。霊鎮の術を何発も撃てて、その上連続放出まで出来る。君は素晴らしい霊能力者になるだろうと僕は思う。だからこそこのしきたりの最中に新しい技を編みだし、母親を救ってあげなさい。』

 

 神作は沙月を指差し、後押しの言葉を掛ける。それと同時に神作は目の前から消えていなくなった。


・・・


 「私に出来る事・・・。神から授けられた力・・・。今までやってきた試練・・・。やっとこのしきたりの意味が分かった気がするよ。母さん、私絶対にこの試練を終わらせる!!」


 沙月は神作の言葉を信じ、扉を開け、二階へと続く階段を上っていった。

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