第11話 第一階第九号室~崩れかけた心~
「霊に情を抱くところだった。優しい霊だとしても気をつけないとね・・・。」
沙月は涙を拭い、第九号室の扉を開ける。するとそこには和室が広がっており、散乱とした書物や絵画などが落ちていた。しかし、沙月はそんなものには視界に入っておらず、あるもの一点を見つめていた。それは綺麗に整備されていたこけしだった。
「うわっ、洋風のホラーも怖いけど、和風のホラーも怖いよ・・・。」
沙月がそう呟いた瞬間急にこけしが飛び上がった。自らの意思を持った生き物のように。
「動くのか!!普通に怖い!!」
するとこけしが喋りだした。
『のろ・・・呪ってやる・・・。』と。
「何故そんな事言うの!私なんも悪い事していないじゃない!神条家になにか恨みでもあるの!?」
『そうだ。貴様ら神条一族は命を大切にするという本来人間の持つ感情を忘れている。』
その瞬間沙月はなにを言っているんだと頭を傾げる。神条家は代々霊を浄化し、数々の呪いや悪霊の退治をしてきた。言わば、今の日本にとって必要不可欠な存在なのだ。しかし、そのこけしはそれを全否定してきている。
『何故俺達を魂ごと葬ろうとしてくる。ただ生き物を使って事故や事件を起こしているだけだと言うのに。こんな巻物さえなければ神条家なんて生まれなかったのに。』
「な、なにを言っているの!?君達悪霊の方が酷いじゃない!!それに巻物ってなんのこと!?」
するとこけしの動きが止まった。そして部屋の角に転がっている巻物を読めと言ってきた。しかしその忠告を無視し、沙月は今目の前にいるこけしを攻撃する為に術を撃ってしまった。
「なんだか分からないけど・・・もし君が悪霊なら見過ごせない!霊鎮の術その5・幻影の牙!!」
その瞬間部屋の黒い影から無数の赤い牙がこけしを貫き、それは消滅した。
『そうやって、霊の気持ちも分からないまま生きていくんだな・・・。』
そして薄気味悪かった部屋は元の明るさを取り戻す。
「ところで巻物って・・・?あ、これだ。神条家について書いてあるのかな?」
───沙月は霊鎮の術と書かれた巻物を開き、中を覗く───
───私は神条神也。これから先何代も続いていく神条家の祖である。そしてこの巻物を見ているという事はしきたりが順調に進んでいる事になるな。取り敢えずおめでとう、我が子よ。しかし、ある事を伝えなければならないから忠告をここに記す。霊鎮の術についてだ。この術は世代が続いていくにつれどんどん強大になっていく物であり、悪霊を成敗していく力となろう。勿論この言葉は間違いではない。だが一つ注意しなければならない。それは強い霊能力者ほど、この技を酷使する事は命を削るという事だ。そうだな、日本中に結界を張れるほどの力を持った世代の人間は40歳以内に死んでしまう。何故ならこの術は生まれる直前に神に認められた魂のみが使える技で、本来神が使うものを生身の人間が使うわけだからその代償として神がその命を頂くのだ。この事は知らない方がいいかもしれない。西暦2120年───
「はっ?ちょっと待って。母さん今40歳だから・・・まずい!!早く母さんに伝えないと!!」
沙月は急いでポケットに入っていた携帯を取りだし、母さんの電話に繋げる。しかしツーツーという音が鳴るばかりで何も返答が返ってこなかった。
「う、嘘でしょ・・・。もしかして・・・。」
沙月は巻物の内容を知ってしまった。それと同時に絶望した。自身の母親からの返答がなかったからだ。その瞬間沙月は足がすくみ、立てなくなってしまった。
・・・
一方その頃神条早苗と一条カスミは悪霊の退治をしていた。
「カスミ!これでこのスポットの浄化も終わりね!!次のば・・・。」
カスミに次のスポットに行こうと合図を送ろうとした早苗は胸を押さえその場に倒れ込んだ。そしてどんどん生気が無くなっていき、昏睡状態へとなってしまったのだ。カスミは驚き、何度も早苗の事を呼ぶが返答がない。
「なんで!今が大事でしょ!!早苗さん!!・・・あれ、これって沙月さんからの着信だ・・・。」
カスミは急いでその着信を取り、沙月に声を掛けた。
「沙月さん!これは一体・・・?」
『私・・・見てしまったの・・・。霊能力者の運命を。もう、終わりだ。』
「何を言っているの!!今いる霊能力者は私と早苗さん、そして君しかいない!そんなところでへたり込まないで!取り敢えずなにか見たんでしょ?言ってみて!!」
『・・・霊鎮の術を使える者は・・・40歳以内で死亡する・・・。』
「っ・・・!!!」
カスミは耳を疑いつつも現状を見て、その言葉が本当だと理解した。勿論カスミは事前に『沙月がしきたりを受けている』と早苗の口から聞いていたが、今長話をする時間はなく、ただ励ましの言葉を掛ける事しか出来なかった。
「沙月!しっかりしなさい!!そんな薄気味悪い所で終わっちゃダメ!必ずやり遂げなさい!!これは私と君の約束!破ったらただじゃおかないからね!!」
そして電話が切れた。
・・・
「母さん・・・私は・・・。」
沙月は全身の力が抜け、次の部屋へと向かう事が出来なくなってしまった。
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