第4話 第一階第二号室~赤い糸~
「うわっ、なにこのねばねばした紐・・・いやこれ蜘蛛の糸だ!!気色悪い!!」
赤色をした蜘蛛の糸に触れ、その感触に薄気味悪い情を抱く沙月。それに加え人の血なのか。部屋中に張り巡らせていた糸は全て、血痕が残っていた。
「うっ・・・吐きそう。なんだここ、早く抜けた方がよさそうだね・・・。虫は嫌なんだ・・・。」
すると突然大きな影が沙月の前に現れた。沙月の悪い予想は的中した。目の前に5メートルはある大蜘蛛がにやりとした笑みを浮かべながら待ち構えていたのだ。それを見た沙月は一瞬で凍りつく。
『お、良いえも・・・あ、ちょっと待て!!!』
「お邪魔しましたーーーー!!!」
沙月は急いで部屋から出て、何も見なかったと思いながら逃げる。しかし蜘蛛は利口だった。閉めた扉を尖った脚を使って器用に開け、柔らかい体を捻りながら狭い通路を抜け、エントランスまで走っていた沙月に追いついたのだ。
「虫が喋るなんて・・・あり得ない!!」
『それがあり得るのさ。虫にも人間と同じように魂がある。生前貴様ら人間が我の巣ごと踏みつけて殺しにかかってきた事を今でも恨んでいる。貴様はそんな虫の悲鳴を知らなかったのだな。まぁ長話はいい。さぁ我の毒針によって液状化し、我の糧となるのだ!!』
大蜘蛛は紫色に染まった尖った脚を怯えている沙月の腹に突き刺した。しかし次の瞬間その脚は溶けて無くなったのだ。
『い、痛い!!なにをした、貴様!!』
大蜘蛛は痛みで冷静さを失う。沙月はその様子をただ見ていただけだった。
「やっぱり・・・私の体、霊の攻撃が効かないんだ!!!」
沙月は常人なら致命傷を負う攻撃を無効化してしまう事に驚きを隠せずにいた。
『ふ、ふざけるなぁ・・・!!』
大蜘蛛は沙月の鋭い目つきに怯え、元にいた部屋へと走り去る。しかし、そのまま見過ごすと試練の意味がなくなってしまう事に気づいた沙月は後を追い、あの恐ろしい霊の住まう部屋へと入った。
『来るな・・・!謝るから!貴様ら霊能力者を殺しまくった事は謝る!だから!!』
えっ、と言葉に詰まる沙月。そう、神条家をもったとしても悪霊の攻撃による犠牲者が多すぎて、霊鎮術を扱える人間がこの世から消えつつあった。そこら中に散らばる血痕はこの島に挑戦した霊能力者の末路だったのだ。その言葉を聞いた瞬間沙月の性格が一時的に変わった。
「君。その霊能力者を何人殺した・・・?」
『えっ、20人くらい・・。』
その瞬間沙月の神々しい光が部屋を包み込んだ。大蜘蛛のやった行動が沙月を怒らせるきっかけを作ってしまったのだ。
「ごめんね。これはしきたりではなく、私情。さようなら、霊鎮の術その1・狩突き。」
沙月は大蜘蛛に手を翳し、霊鎮の術を唱えた。するとその瞬間幾百はあるだろう針が手から飛び出し、大蜘蛛に無数の穴を空けたのだ。
『ガハッ・・・。』
大蜘蛛は消滅し、部屋中を覆っていた糸は消え失せ、元の静寂さを取り戻した。
「はっ・・・!私、今怒っていたんだ・・・。ごめんなさい亡くなられた皆さん。今浄化しますのでどうか悪霊にならないで・・・。霊鎮の術その7・清光の微笑み。」
沙月は沢山の魂を青白い光で優しく包み込んだ。すると、その霊達が浄化と同時に沙月の前に笑顔で現れ、『ありがとう。』と伝え、天へと向かった。その時沙月は気づいてしまった。その霊達の中には共に除霊式を行った人の霊がいたのだ。その瞬間沙月自身の心は悔しい気持ちでいっぱいになっていて、涙が止まらなくなったという。
「・・・ここでとまっちゃだめだよね。神条家の名に恥じないようにすぐに進まないと・・・。」
沙月は第二号室を後にし、第三号室の扉を開けた。
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