2 異世界人との遭遇(死)


『肉と水だけを取って荒野で野宿して生きていくってのは難しいし嫌だ。人里か、せめて自然のある場所を見つけて移住をするか、荒野に定住できる何かを持ち帰ってくるべきだと思う


そしてそれはどこかにはある。なぜならこの世界には酸素がある、ならこのまま荒野だけだとは思えない、少なくとも植物があるはずでしょ?


たけどここから動いた結果死ぬ可能性があるのなら複製スキル持ちの私は動けない。

もっと危険な魔物がいて襲われて死んだら全滅するだろうしね、だからとりあえず死の危険のない場所を探す調査隊を派遣することにしたいの。


最低限の準備が整ったら調査隊分を複製で増やそうと思ってるけど……もし行きたいって人がいたら三日以内に言ってね』





というオリジナルの言葉を聞いてから4日。

魔物の解体を永遠とさせられるのに病んでいたためにこれ幸いとオリジナルの言葉に乗っかって遠征についてきたわけなのだが……。


「早まったかなぁ……」


「なに?今さら後悔してるの?」

「エーコは初期メンバーだから行かない選択肢があったのにね」


そんな言葉を私に投げかけるのはビーコとシーコ。

調査のために作られた調査隊のスリーマンセルのメンバーでオリジナルによってA子、ほか2人はB子、C子、とかなり雑で安直なネーミングがなされている。


まあでも私、名前をつけるのが苦手だからこの先も名無しの複製の「私」のほうが多おだろうし名前があるだけ贅沢なのかもだけど。


「……いやさぁ、魔物の解体が嫌になったからってわざわざ大変で危険の多い調査に行く必要はなかったなって。私、一時的狂気を発症してたかもしれない」


「まあ確かに1日中歩きっぱなしだし、今すぐ疲れ切った私たちに強めの魔物が襲いかかってきて全滅する可能性だってあるしね」

「おのれ異世界、あまりにも環境が厳しすぎる」

「いやまあ多分この世界に転移しなかったら私達は生まれてないんだろうけどさ」


「……改めて考えるとこの私ってオリジナルの記憶があるだけでオリジナルがスキルを使った瞬間に生まれたのよね。『万物複製』倫理的にやばいスキル……」


そう私が言うとビーコとシーコは考え込みだす。誕生がつい最近な上に一つの目的のためだけに生み出されたからこそ、私以上に不思議な気持ちになるんだろう。

私は我思う故に我在り精神ではあるが、それでも不思議なものは不思議なのだ。


そんな感じで疲れをごまかすように無駄話をしながら私達は2日ほど歩き続けた。

もはや話す余力もないほどに疲れ切った頃……シーコが突然声を上げた。


「ねえ……あれ、人工物じゃない!?」



私は声が出ないほどに驚きながらもシーコが指さした方向をとっさに見る、すると遠目に人工物らしき物があるのが見えるではないか。

しかもその周りは植物で生い茂っているように見える。


「ほ、本当だ!それに植物も生えてる!」

「人がいる……!希望が見えてきたね……」

「やっぱり幻覚じゃなかった!ほらお手柄だぞ!褒め称えよ!」

「凄い凄い!さすが!」

「はーっかっこよすぎ!男だったら惚れちゃいますよ!」


私とビーコでシーコを褒め称えながら魔物素材の原始的な武器を捨てて丸腰になって砦の方に人工物の方に歩いていく。

こがどんな場所なのかもわからないんだ、駆け寄った結果ここまで来て敵だと思われて殺されたらたまらない。


ゆっくりと、ゆっくりと、それでも心は焦って走りたくなる。

人工物……いや、小さな街に近づいていくごとに植物が増えていくのが見て取れる。


そして……ああ。人間がいた!二人に笑顔でそれを伝える。


「ほら、あそこ、人だよみんな!」


二人が声にならないような喜びの声を上げた。

喜びを我慢できなかったのだろう。シーコが笑顔で人の元に歩いていって……。




「ギャっ」


シーコが崩れ落ちた。

心が止まる、呆然としながらシーコの方を見て……ああ、なんてことだ、頭に矢が貫通しているのが見える、即死だ。

よく見ると向こう側にいた人は弓を持っていた、あれで撃たれたのだろう。


「なっ……待ってください!私たちに敵対するつもりは……」


ビーコはシーコが死んだことに気がついていないようで両手を上げて叫んでいる。


私は……血をみて魔物解体のトラウマを刺激されたからか逆に冷静に判断ができた。

ここにいたら殺される、逃げなきゃ。その心のままに、脇目も振らずに一心不乱に逃げ出す。


「ぎゃっ、ああ!痛いっ……待っ、死にたく」

「悪魔め、死にやがれ!」


ビーコの悲鳴と男の怒声が後ろで聞こえる。

なぜ男の言葉がわかるんだろう? 悪魔ってなに? シーコはどうして殺されたんだろう?そんな疑問達が浮かんでは消える。


ビーコの悲鳴は何度も聞こえては遠ざかっていって、最後に私の名前を呼んで消えて。それを振り切って、逃げて逃げて逃げて転んで。そして振り返ればそこには荒野しかなかった。

安堵と恐怖に満ちた心で私はボソリと軽口をつぶやいた。


「……異世界、ハードすぎん?」


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