第9話 8月 前

 夏休みが始まり、恐ろしい程の暑さに悲鳴を上げていたある日の夕方、隣町で開かれる盆踊りに向かう

 まだ蒸し暑い中を自転車で向かう途中、会場に向かう人たちを見かける

 浴衣を着て下駄を履きカランコロンと歩く人たちも多く、これが祭りかとウキウキしてくる


「あ~、せんせー!盆踊り行くんー?」


 道の途中にいた3人の子供の一人が声を掛けてくる


「そうダヨー、シンゴたちモ行くのカイ?」

「そうやで、後はひで君とまさきが来たら行くわ」


 どうやら待ち合わせ中らしい。道の端に自転車を止め、3人で待っていたようだ


「そういやせんせー盆踊りの場所分かるん?」

「場所ハ坂東先生に聞いたヨ」

「そっかー、まあこのまま真っ直ぐ行って坂降りたらすぐ分かるで」

「みんなそっち行くから付いてけばええよ!」

「分かったヨ、アリガトウネ」




 子供たちに一旦の別れを告げ、また道を進む

 聞いた通り途中で会う人はみんな同じ方向に進み、かすかに笛と太鼓の音も聞こえてきたので道に迷うことは無さそうだ

 坂を下った先にある交差点の向こうに、提灯で彩られた盆踊り会場の入口が見える


「先生こんばんはー」

「こんばんわー!」


 交差点で信号が変わるのを待っていると浴衣姿の女の子たちに声を掛けられる


「コンバンハ、ユカリたちモ盆踊りカナ?」

「うん!」

「浴衣は初めて見たケド、みんなカワイイデスネ」

「へへー、恥ずかしいわぁ」

「めんどくさいけど今日と明日だけやしなー」

「お母さんに去年着てないんやから今年は着ていったら?って言われたし」


 自転車を降り歩きながら子供たちと話をしつつ信号を渡って会場へ向かう


「あ、せんせー、先にリエん家寄ってリエ呼んでいい?」

「そこの駄菓子屋やねん」


 子供たちが信号を渡ってすぐの店を指差す


「いいヨ、一緒に呼びに行こうカ」


 そう言って駄菓子屋に入っていくとレジの前に座っているおばあさんに女の子たちが声を掛ける


「おばあちゃん、リエちゃんおる~?」

「おるよ~、りえちゃ~ん、友達来たで~」


 おばあさんが店の奥に声を上げると


「はーい!今行くー!ちょっとだけ待ってー!」


 と奥から声が聞こえる


「もう!友達待たして!はよしいやー!みんな悪いねー」

「お菓子見てるからええでー」

「待ってるわー」


 店のお菓子を見に子供たちが離れ、私はおばあさんに話しかける


「コンバンワ、リエチャンの英語教師のベイリーデス、盆踊りを見に来まシタ」

「あらー、外国の先生なんやね、えらいもんやわぁ、リエがお世話になってます~」

「あれ?ベイリーせんせも来てるん?盆踊り来たん?みんなーお待たせお待たせ!」


 リエちゃんが慌ただしくやってくる


「じゃあ行こー」

「待ってー、ちょっとお菓子買うわー」

「えー?出店でかき氷とかあるやん」

「そうやけどー」

「ちょっとだけ待ってー」


 お菓子を選び続ける子たちを見て諦めたのか、リエちゃんはこちらにやって来る


「せんせーは今日何時ごろまで盆踊りおるん?」

「初めてダカラどうしようカ迷ってるケド、8時くらいマデいるヨ」

「せやったら後で花火やれへん?今年どっかでやろっかって買って貰ったヤツあるねん!大人の人おるんやったら裏の神社の広場で出来るんやけど!」

「え?花火はやってみたいケド神社で勝手ニ花火をやっていいのカイ?」

「毎年そこでみんなやってるで!なぁ、おばあちゃん?」

「盆踊りの時は毎年やから誰かしらおるで、それに花火ゆうても手で持つのだけやから、変な所燃やさんように気ぃつけてバケツに水入れてやったらええ」

「わかりマシタ、リエチャン、一緒に花火をやろうカ」

「やった!みんなも花火やるやろ?じゃあ取ってくるわ~!」


 リエちゃんは店の奥の家に走っていく


「せんせぇえらいすいませんなぁ。多分他にも子供と花火しにきた大人がいてるから、滅多な事は無いと思いますわ」


 おばあさんに子供たちの事を頼まれていると、お菓子を選び終わった子供たちがお金を払いにやってくる


「おばあちゃん、はいこれ!せんせー花火するん?」

「ウン、みんなは大丈夫カイ?」

「8時やったら大丈夫やで!お父さんとか迎えに来るの8時くらいって言うてたし」

「うちのお母さんもそれくらいに盆踊り見に来て、ちょっと踊ってから帰るって~」


 どうやらみんな大丈夫らしい

 そしてみんながお菓子を買い終わると同時にりえちゃんがまた走ってきた


「花火持ってきたで!袋にライターとか入ってるって言ってた!あと表のバケツ持って行きやって~」


 そう言い大きいビニール袋の中身をみんなに見せるように袋を広げる

 手持ち花火のセットがいくつか入っているらしい

 子供たちはキャラクター物のセットや量の多いセットを見て、どのような順番にするかキャッキャと相談しながら店の外へ出る

 私も自転車のそばに向かう


「せんせー、花火とバケツ、自転車のカゴ入れていい?」

「いいヨ、じゃあ行こうカ」


 そうしてみんなで盆踊り会場に歩き始めた

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橋の下から愛を込めて 十字路 @P0080

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