第8話 7月

「あっつー!」

 チャイムが鳴り授業の終わりと共に口々に声を上げ、生徒たちは水筒からお茶を飲みだす

 男の子の何人かは水道から水を飲んでいる、大丈夫なのだろうか?

 さすがに暑くなってきたので外で遊ぶ子はほとんどいなくなり、男の子はエンピツを転がし、女の子はシールを交換したりして休み時間を過ごすようだ

「今日の帰り、そこの裏の川行かへん?」

 そう友達を誘っている男子がいる

「危ないから子供だけで行ったらあかんよ~。休みの日にお父さんお母さんと行きやー」

 担任用の机で作業していた先生が言う

「え~」

「あーい」

 生徒の不満そうな声を聞きつつ担任の先生と職員室へ戻る


「毎年学校帰りに子供らだけですぐ川行って、お菓子のゴミとかぽいぽい捨てよるんよ」

「ソレは困りマスね」

 戻る途中の廊下で教えてくれる

「橋の前の店でお菓子買って・・・ん?橋の前・・・あれ?」

 首を傾げた先生にどうしたのか聞こうとしたその時

「ベイリーせんせぇは夏休みになったらどうするん?」

「プール教室とか来る?」

 子供たちが聞いてくる

「盆踊りの日マデイマスヨ。次の日に一度イギリスに帰りマス」

「えー、帰るん?」

「28日か29日にマタ戻ってクル予定デスヨ」

「じゃあおみやげ何かちょーだい」

「おみやげー!」

「アホー、何ゆうてんねん。怒るで!」

 子供たちは先生に怒られるとパッと散っていく

「とりあえず俺のお土産はウイスキーとかでええですよ?」

「エッ?」

「ははっ!嘘嘘冗談ですわ、いらんいらん!」

 先生は笑いながらそう言い、二人で職員室へ入っていく




「あ、ベイリー先生、悪いけど後で一回裏の川に行って、子供遊んでへんか見てきてくれません?」

 放課後、そう声を掛けられる

「わかりマシタ」

「外暑いのに悪いですなぁ、遊んでるヤツおったら帰るように言うといてください」

 片付けをし、裏の川へ向かう



 周りから叩きつけられてくる様な蝉の声を聞きながら裏の川へ向かう途中、子供たちの遊んでいる声が聞こえる

 河原に降りるとランドセルを放り出し遊んでいる子供たちがいる

 川に入っている子はいないが、石を投げて遊んでいるようだ

「おーい、川で遊んじゃダメダヨー!」

「あー!ベイリー先生来たん?」

「川ん中は入ってないでー!」

「石投げてるだけやー」

「河原ダト大きいケガにナルカラ大人がいないト駄目ダヨー」

「えー、じゃあせんせーここおってやー」

「ボクはマダ仕事があるカラ、帰らナイト」

「ちょっとでええから!」

「ちょっとちょっと!」

「今ある石投げたらすぐ帰るー」

「ワカッタ、少しダケダヨ、シャーナシヤデー」

 少し笑って言うと子供たちが嬉しそうにする

「いぇーい、さんきゅーさんきゅー!」

 ここは水切り出来るほどの川幅は無く、子供たちは川の中ほどにある岩の上目掛けて石を投げぶつけ合い、自分の石が乗っている時に陣地を主張して楽しんでいるようだ


 少しの間見守りつつ石投げに飽きてきた何人かの子たちと橋の下の陰で話をする

「ココは凄く涼しいネ、日本ノ夏はスゴイ暑さでミイラになりソウダヨ」

「まだもっと暑なるよ、せやから夏休みあるんやし」

 その言葉に戦慄する

「・・・夏休みにイギリスに帰る事にしてヨカッタ、本当にミイラになってたカモネ」

 そう言うと子供たちは笑いだす



 まだ石投げをしていた子たちもこちらに近づいてきた

 そろそろみんな帰るかなと立ち上がった時、学校からチャイムの音が聞こえる

 その瞬間立ち眩みのように周囲の景色が回り、チャイムの音と蝉の音が混ざり合い、自分がどうなっているのか分からなくなってしまう

「キーンコーンカーンコーン」

「ジージージージー」

「ははははははは」

「出来た出来た!」

「いたいいたいいたいいたい」

「ごちそうさま!」

「おいっ!」

「こんばんわー」

「嫌!嫌!嫌!嫌!」

「どうなっとんねん!どうなっとんねん!」

「ああああああ!」

「はい!喜んで!はい!」




 頭の中に破裂しそうな程色んな声を注ぎ込まれ眩暈を起こし、回る視界の中で橋の下の川から空に向かって無数の光の線が伸びているのが見えた

 それを意識した瞬間、一気に音が止み景色が返ってくる

 チャイムの音は消え、蝉の音だけ聞こえてくる

 暑さで全身にかいていた汗は冷や汗に代わっていた

 今のは熱中症か何かだろうか?

「せんせーだいじょーぶ?」

「お茶飲むー?」

「保険の先生呼んでこよかー?」

 子供たちが心配してくれているようだ

「ダイジョウブダイジョウブ、暑かったダケダヨ」

 そう言って子供の渡してくれたお茶を受け取る

「フゥ、アリガトーネ」

 コップを返すとまだみんな心配している

「チャイムも鳴ったしそろそろ帰りマショウ」

「はーい」

「帰るわー」

「ばいばーい」

「お大事にー」

 どうやら素直に帰ってくれるようだ

 学校に帰って少し涼しい部屋で休ませて貰おう




「えっ!?そらえらいこっちゃ!保健室行かなあきませんわ!」

 職員室に戻って少し休ませてもらおうと眩暈の事を話すとそう言われ、保健室で事情を話し休ませてもらう

「いきなり日本の夏はきつかったんかもねー、日が落ちるまでここで休んで、涼しなってから帰ったらええですよー」

「ハイ、ありがとうゴザイマス」

 保険の先生にお礼を言いベッドで横になり目を閉じる

 さっきの眩暈の時、何か気になる声があったような・・・?

 そう思いながら眠りに身を任せていった




 2時間程眠っていたようで辺りは暗くなり始めていた

 用務員さんに挨拶をし、自転車で家に帰る

 蝉の音は止んでおり、外はまだ暑かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

橋の下から愛を込めて 十字路 @P0080

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る