第4話 5月

 5月半ば、日本に来てから少し伸びてきた髪を切りに散髪屋へ行く


「真吾の学校の先生さんでしょ?うちの子が言うてましたわ」

 

 どうやら散髪屋はシンゴのお父さんらしい


「この辺にも外国の先生が来てくれるようになったんやねぇ、えらいもんやで」

「うちの子英語出来るようになりますかね?」

「うちの子はサッカー好きなんやけど、イギリスゆーたらサッカーやね~」

 

 話しかけられている内に髭剃りシャンプーと続き、あっという間に散髪が終わった


「アリガトウございまシタ」

「はいども~、真吾お願いしますね~」




 次の日の朝、駐輪場に自転車を止めていると女の子たちが話しかけてくる


「先生散髪したん?」

「髪の毛ビシッとしてる~」

「シンゴのお父サンの散髪屋に行ってキタヨ」

「一番近いしな~」

「あたしはシンゴのお父さんとこはちょっと恥ずかしいわ」

 

 話しながら自転車の鍵をかける


「なんかかわいいの付いてる!」

「ほんまや!」

 

 自転車の鍵のキーホルダーを見て女の子たちが言う


「駄菓子屋に行った時にヒデくんにモラッタんダヨ、何のキャラクターか分からないけど女の子なら知ってるって言ってマシタ」

「これ知らんわ」

「あたしも分からんわ~、でもかわいいやんね」

 

 そう話しながら校内へ向かっていく


「じゃあ先生シンゴらとリエんち行ったんか~」

「? ドウイウコト?」

「駄菓子屋って隣町のリエんちか山の上の方しかないやん?」

「エ?そんナ・・・そうなんデスカ?デモ・・・」

 

 隣町は自転車で15分ほどだったはず、そんなに遠くに生徒と出かけた覚えは・・・

 だけどキーホルダーは確かに貰って・・・


「先生おはようございます!」

「はよー」

「ア、ああ、ミナサンおはようございマス」


 その疑問は朝の忙しさに押しつぶされ消えていった




「ごめんなベイリー先生、飲みとか連れて行ってあげたいんやけど、ここらやと親御さんがどこの店にもいてるんよね~」

 

 5月の終わり際、夕暮れに帰る準備をしながら色々話していると同僚の先生が謝ってくる


「大体の先生は車で遠くからやってくるし、近くに店は少ないしでどないもならんのですよ」

「大丈夫デス。アリガトウ」

 

 気を使ってくれているのが分かる


「食べもんも近くにうどん屋と定食屋だけですやろ?ストレスとか溜まってへんか思って」

「ご飯はトテモ美味しいデス。ストレスも全然ダイジョウブ」

「そうか~、まあ祭りの季節になったら面白いもんも見れるかもしれへんなぁ」

「マツリは楽しみデス。どんなマツリなんデスカ?」

「ここらは8月に盆踊りと10月にだんじりですわ、だんじりは町の青年団に言うといたら練習から参加出来るんちゃうかな」

「今年はミルだけにシヨウと思いマス。今カラ楽しみデス」

「せやな、じゃあそろそろ子供ら運動場から出しましょかー」


 そう言うと職員室から二人で出ていき、子供たちに帰る時間だと促していく



「ユウジ、モウ帰る時間ダヨ」

 

 砂場の上にある高い鉄棒につかまろうと男の子がジャンプしている

 その子の身長ではつかまるのが中々難しい高さに鉄棒があり、何度も挑戦している


「ちょっと待ってー、もうちょいで届きそうやから」

「チャイムが鳴るまでダカラネ、届きそうカイ?」

「さっきちょっと掴んだからいけそうや!」

 

 そうして何回もジャンプを繰り返し、片手がガッチリと鉄棒を握り、もう片方の手も鉄棒を握る

 運動神経は良いのかそのままクルリと逆上がりをする


「ふっ!出来たっ!」

 

 得意満面な顔でこちらを見てくる


「オメデトウ!スゴイ!」

「へへ!出来た出来た!」

 

 うれしそうな顔で降りてくる


「じゃあ帰るわ!また明日~!」

 

 ランドセルを背負い笑顔で走り正門を出ていく


「出来たっ!出来た!」

 

 少し離れても喜ぶ声が聞こえる、きっと今日はずっとご機嫌だろう

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