第50話 眼鏡キャラの腹黒率は高い

 頭が痛い。だが予想はできたはずだ。

 なんせカルノタスとドロマエオは確実に物語の登場人物。その二人と接点のある人物だ。可能性は高い。


(成る程ねぇ。たぶん婚約者筆頭ゆえに最初につっかかってくる敵ってとこかしら。んで、パラントは取り巻き……いえ、カルノタスの従姉妹なら味方の可能性が高いわね)


 本当に厄介な事になった。いくらオリクトがカルノタスの球根を拒否しているとはいえ、他の令嬢からすれば面白くない。ましてやオーラムの公爵令嬢となれば、いくら隣国の王女とはいえ泥棒猫に見えても仕方ないだろう。

 ストレスで頬が引き攣りそうになるも、顔には出さず平常心を保つ。ここはもう子供の遊び場ではない。外交の場だ。

 咳払いをし、今度はこちらの番だとフリーシア達を紹介する。


「ではこちらも紹介させていただきます。コーレンシュトッフ王国元帥、ヘレフォード卿の令嬢、子息のフリーシア・ブラークとノルマン・ブラーク。お二人は双子の姉弟なの」


「はじめまして」


「よろしくお願いしますわ」


 二人は表面上は笑っていたが警戒心がどす黒いオーラとなって見えていた。

 一応はオリクトの意思を尊重しドルドンとの仲を応援してくれている。自然とカルノタスに敵意を抱いてしまうのだ。

 嬉しいが自重してくれと内心祈っていた。

 一方ドロマエオは二人の名に聞き覚えがあった。


「ブラーク? ああ、たしかシルビラ殿下の夫の……」


「兄ですわ」


「へぇ。確かに面影がありますねぇ」


 ニヤついた笑みが何とも言えない胡散臭さを滲み出していた。皇太子の側近。そんな男が陽気にお世辞を言うはずがない。

 笑顔の仮面の下では何を考えているのやら。オリクトだけでなくフリーシア達も警戒する。


「そして彼が私ののドルドン・マグネシアです」


 婚約者をわざとらしく強調した。

 彼女なりのトライセラへの配慮のつもりだった。婚約者がいる。だからカルノタスの求婚に困っている。そう暗に言っていた。

 だがトライセラに肩入れするのも危険だ。オリクトはもう一人の竜の花嫁、この世界の主人公が他にいると読んでいたからだ。

 トライセラを皇妃に祭り上げるのは簡単だ。しかし異国の政治に関与し主人公の敵に回るのはあまりにもリスキーだった。

 あくまで皇妃に興味が無い。そのアピールが重要だろう。


「はじめまして」


「……………………」


 トライセラの値踏みするような視線が突き刺さる。その視線の中にあるもの。それは侮蔑と怒りだった。

 自分の好きな男は他の女が好き。そしてその女は他の男が好き。しかも自分が好きな男より遥か格下の男だ。

 めんどくさい。彼女はカルノタスはドルドンよりも劣ると侮辱されたと錯覚しているのだろうか。

 いや、言いたい事は理解できなくはない。オリクトも「ドルドンなんかより彼の方が素敵」なんて面と向かって言われれば多少は苛つく。


(あーもう。どんだけ面倒なのよ。こっちが無関心だと怒って、皇妃を狙えば敵認定。流石は悪役令嬢ねぇ)


 どうしようかと頭を動かす。しかしオリクトが対応するよりも先にドロマエオがぐいっと前に出る。

 その目は爛々と輝き、その奥から欲望の色が見えた。


「ああドルドン君、実は君と話したかったんだよ」


「ぼ……私と?」


「そうさ。何やら、コーレンシュトッフには魔法具職人の部族がいて、君が族長の息子だとか」


「ええ。確かに父はクド族の族長です」


 ニヤニヤとした胡散臭い笑顔。眼鏡も相まってか、どうも怪しく見えてしまう。


「なるほどね。王城の魔法灯も全て?」


「ええ。陛下のご厚意で多くの注文を頂けました」


「ほほう。そんなに大勢いるのかな?」


「三百程ですね」


「ふむ……三百人の魔法具職人ですか。それは凄い」


 隣にいたトライセラ達も驚愕に目が点になる。彼女達が驚くのも無理はない。本来魔法具職人希少な人材。二桁どころか三桁人の職人を保有している。これだけで規格外の国力になるのだ。


「ところでドルドン君」


 ドロマエオの眼鏡が怪しく輝く。


「一つ聞きたいんだが、君達クド族はマグネシア領にしかいないのかな? 例えばそう……他の領民と結婚してたりとか」


「そういった話しはありませんね。お恥ずかしながら、我々は元々移民でして。あまり快く思っていない人も多いんですよ。陛下のご厚意で変わってきてはいますが」


 何の変哲も無い話し。コーレンシュトッフの者なら誰でも知っている。しかしオーラムは別だ。


(何か裏がありそうね。ドルドンではなくてクド族に興味があるみたいだし)


 とにかく怪しい。何故クド族の婚姻状況を聞いたのか。絶対に意味がある。


(ちょっとカマをかけてみようかな)


 好き勝手はさせない。反撃の狼煙を上げるようにオリクトの瞳が輝いた。

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