第33話 義父とタイマンとか怖くありませんこと?
緊張。その一言で表して良いのだろうか。否、そんな単純なものではない。槍の先端に立っているような気分だ。
齢十六のドルドンには酷な状況だった。まさか国王と
王女の婚約者なのだ、今まで何度か国王ウルペスと話す機会はあった。しかしオリクトや父が常に近くにいた。二人きりで対談するのは初めてである。
この状況で平然としていられるだろうか。国王であり婚約者の父。そんな男を前にして呑気に談笑できるはずがない。
「そういえば、こうして二人きりで話すのは初めてだったな」
「は、はい」
「そんなに緊張するな。君はいずれオリクトの婿になる。私の事も父のように思って欲しい」
そう軽々と言うが彼にそんな余裕は無い。王様、なんてものを目の前にし、更に義父となるならなお緊張するだろう。
「まっ、そう言っても難しいか。私も逆の立場だったら真っ青になってひっくり返っただろうからな」
ドルドンの気持ちを察してか、ウルペスも同情するように苦笑いをしている。そんな様子が妙に人間臭く、少しだけ親近感を感じる。
そのおかげか気が軽くなり頬が緩む。
「ふふ。少しは緊張がほぐれたかい?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「さて。では本題に入ろうか」
軽く寄り掛かりながら目の色を変える。ついさっきまでとは違った空気を纏う。
ただ談笑をしに呼んだのではない。明確な目的があって呼んだのだ。
「ドルドン。先日は君も大変だったな。あのオーラムから敵視されて、腰を抜かず立っていたのは評価に値するぞ」
「まあ、シルビラ様の披露宴で一度睨まれてますので。オリクト様への想いで持ち堪えました」
ウルペスが一瞬目を点にする。そして豪快に大笑いを溢した。
「うわっははは! そうか、オリーがそんなに好きか」
「はい。この身、血の一滴全てを捧げたいと思っています」
真っ直ぐ、真摯な瞳で答える。男尊女卑社会の中では珍しい青年だ。
確かに男性の従者が女主人を慕う事もある。だがドルドンは貴族だ。いくら相手の方が地位が上とはいえ、女性だからと軽んじる者は少なくない。中にはオリクトの血筋を利用しようとするのも珍しくない。
だからこそドルドンのような者が好都合なのだ。
「君のその想い。王家として非常に好ましいよ。オリクトにとても従順だからね。君のおかげで彼女の才を十全に引き出せている」
「ありがとうございます」
「だが」
目つきが剣のように鋭くなる。さっきまでとは違った空気を出していた。
「今後の事を考えると、君にはもっとしっかりしてもらわねばならない。二人の様子を見ていると、男女逆だと良かったと思うくらいだ」
「…………女々しい男であるとは自覚しています」
痛い所を突かれた。ドルドンもこの事は自覚している。地位が下だからと甘んじていたのかもしれない。
「なに、批難しているのではない。オリクトを利用しようとしている連中より信じられる。それよりも」
姿勢を変え背もたれにより掛かる。
「今回、オーラムの件はオリクトに任せた。しかし今後は違う。私も、君も、オリクトを守る為に自らたちあがらなければならない。わかるね?」
無言で頷く。ウルペスの言う通り、今回は異例中の異例。本来なら二人が前に出てカルノタスを退けなければならない。
オリクトが対応したのが一番効果的だったが、他はこうならないだろう。
「ドルドン。君も理解しているだろうが、オリクトを娶りたいのはカルノタス・オーラムだけではない」
「はい。オリクト様を妻にすれば公爵も夢ではありません」
「ああ、だがそれだけではない」
ウルペスの顔が一気に曇る。困ったように眉間にシワを寄せ面倒臭そうだ。
「グラファイト公爵家。こいつが一番の厄介者でな」
「公爵家ですか? という事はブラーク家のように王家の血縁の家ですよね」
「そうだ。私の弟、タウラヴが婿入りした家だ。そして……」
大きくため息をつく。
「そこの嫡男が王位を狙っているのだよ」
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