第24話 ダーリンが凹んでますわ 急がねば
コーレンシュトッフ王宮第四客室。広い。人っ子一人いるだけにしては有り余る広さだ。
ふかふかのソファーに座り、置かれた紅茶に手も着けず頭を抱える褐色肌の青年がいた。
「どうしよう……」
ドルドンは絶望しきったように項垂れている。
「ラゴス様とシルビラ様は味方してくれるだろうけど、絶対陛下はオーラムとの同盟を望むだろうし。勢いで啖呵切ったけど不敬罪で一族もろともってないよねぇ?」
オリクトが皇太子の求婚を蹴り自分を選んでくれた。嬉しさのあまり飛び出してしまったが、一歩間違えればどるが危なかった。部屋に入り冷静さを取り戻すと一気に冷や汗が溢れてくる。
「陛下は我々を高く評価してくれています。少なくともそれは無いでしょう」
焦るドルドンと違いオルカは冷静だった。
「まあ、殿下との婚約は絶体絶命。早めに嫁を探すのも吉かと」
「…………嫌だ」
やっとの思いで声を絞り出す。
「でもそれが一番なのも解っているんだ。本当、女々しいよね」
自嘲しながら笑う。自分の立場を理解してるからこそ辛い。オリクトと性別が逆だったら流行りの恋愛劇にも見えただろう。
「オリーが僕を選んでくれた。嬉しかったし勇気が湧いてきた。でも、僕は小さい男だ。勝てるはずがないよ」
「オーラム帝国の皇太子でしたっけ? なんともまあ、話しが大きくなってますねぇ」
「だから絶望してるんじゃないか」
今にも泣き出しそうだ。悲しい。身分不相応だと諦めようとした。しかし想い人から手を差し伸べてくれて希望を見出してしまった。それが諦めきれない気持ち湧き上がらせている。
感情なんて無ければ良かった。好意を抱かなければこんなに苦しむ事はなかった。いっそオリクトから捨ててくれれば楽だったかもしれない。
「若様。人間諦めが肝心です。私としてもオリクト殿下との婚約は喜ばしいと思っています。そしてクド族の民全てが同じ気持ちです」
オルカの方を見上げる。
「職人達は殿下の設計図をいつも楽しみにしています。彼女こそ主に相応しいとよく聞きます。ですが、これはどうにもならないかと。国同士の同盟に最適ですからねぇ」
悲観的ではなく現実的な男。彼の言葉を理解しつつも認めたくない。ドルドンはそこまで大人ではなかった。
「解ってる、解ってるさ。貴族になった以上結婚だって家の損得勘定だって理解してる……けど」
そう言いかけた時扉の前て待機していた騎士、エラスモが声をかける。
「オリクト殿下がいらっしゃいました。お通ししても?」
「っ! すぐに」
急いで立ち上がり服装チェック。心臓が破裂しそうな程脈動する。来た。来てしまった。話し合いが終わり止めを刺しに来たのだ。
聞きたくない。しかし聞かない訳にはいかない。
「ドルドン……」
オリクトが部屋に入って来る。背後には無言の威圧感を出すマムート。彼女達と入れ替わるようにエラスモは再び入り口の警備に戻った。
空気が重い。原因はドルドンだ。彼の不安な気持ちが全身から溢れている。
酷い顔だ。今にも泣き出しそうな憔悴しきった顔。とても王女に見せる様ではない。
そんな彼に寄り添い、オリクトの手が頬に触れる。
「不安にさせてごめんなさい。もう大丈夫だから」
「大丈夫って……」
「会議の結果、断る事になったの」
ドルドンだけでなくオルカも耳を疑った。断るはずがない。コーレンシュトッフよりも大国、その皇太子からの求婚だ。普通なら従うはずだろう。
「どうして? も、もし戦争なんかになったら……」
「貴方と心中する」
黒い笑顔だ。それ程想ってくれている嬉しさと、自らの命すら盾にする恐ろしさがこの笑顔から溢れてくる。
「私はあの男にとって人質の価値がある。私が無理に嫁ぐ必要は無いのよ」
「だからって」
「それだけじゃないわ。お姉様は怒り狂ってるし、お父様は私の発明が必要だと言って味方してくれた。お母様とお兄様も、表向きは嫁ぐ事に賛成していたけど内心は反対してくれてた」
家族の後押しもあったのが嬉しかった。全員で嫁げと言われてもおかしくなかったのに、これは奇跡とも言えよう。
離れなくて良い、彼と添い遂げて良い。そうなったのが何よりも嬉しい。
「だから安心して。私はドルドンを棄てたりしないわ」
ドルドンに歩み寄り頬を撫でる。そして涙ぐんだ目を拭った。子をあやすような仕草だ。
「オリー……」
そんな彼女を強く抱きしめる。離れたくない、離したくない。そう叫ぶように。
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