第23話 答えは決まってますわ あとおもしれー女呼びは絶許
答えは出ている。自分の夢、願いは何か。叶えるには何が必要か。叶えた先に何があるのか。
考えるまでもない。何年も前から決まっている。
「私はオーラムに嫁ぎたくありません。理由は三つあります」
「三つ? その、ドルドンとの仲以外に二つも? ああ、いえ。個人の感情だけではないのは良いのですが……」
ルプスも少し困惑している。
「はい。確かにドルドンと添い遂げたい気持ちが一番です。むしろ理論的な理由はお父様の意見と同じですね」
軽く息を整える。
「私は魔法具開発を続けたい。生まれ育ったこの国のためにです。私が支えたいのはオーラムではありません。コーレンシュトッフです。あの男には叶えられない私の
自分のため、この国に生きるすべての人々のために
「それは良い気概だ。私もオリーの活躍には大いに期待している」
父からの期待、これ程嬉しいものはない。自分の行いに価値があると太鼓判が押されている。
「ありがとうございますお父様」
「で、あとは何だ? 正直嫌な予感がするんだが」
残念ながらラゴスの予感はひっくり返り濁流のように彼を飲み込む。
「ええ、これがドルドンを愛しているのと同等の理由。と言うより、ここから先は完全に私の感情論なのですが……私、あの男が大っ嫌いなんです」
空気が凍りつく。時間が固体となり部屋そのものを封じたようだった。
そんな仲、ウルペスは目を細めじっとオリクトを睨み、思い出したようにシルビラが笑い出す。
「あー。嫌いか。少々不可解だが……何がそんなに嫌なのだ? こう言うのもアレだが、見てくれと風格、能力は一級品だぞ」
「勿論そこは理解しています。ですが……」
オリクトの顔が般若の形相になる。怒りに震え全身から憤怒のオーラが溢れてきた。
「あの男は! 私を面白い女と呼んだんです! 珍妙奇天烈、摩訶不思議、奇想天外、珍獣のようだと宣ったのですよ! 醜いと呼ばれる以上の屈辱だわ!」
「なんて男なのかしら! オリーを愚弄するなんて……」
シルビラも見た事かと話しに乗り出す。般若が二人。淑女にあるまじき怒りが熱波となる。
「その上
「せ、生理的に無理……」
流石にここまで露骨に嫌悪感を露にするとは思ってなかったのだろう。ウルペスも唖然としていた。
「という訳でお父様。オーラムから縁談の書状が届きましたら、私に返事を書かせてくださいまし。鼻っ柱をへし折ってとぐろ巻いて突き返してやりますわ」
「そ、そうだな。私よりお前の言葉の方が響くだろう。オリーが直接断れば効果的なはずだ」
圧巻だ。今のオリクトはウルペスですら気圧される気迫があった。女は怒らせたら恐ろしい、そう改めて認識させられる。
「しかしオリー。もし私もオーラムに嫁ぐのを賛成したらどうするつもりだったのだ。国王である私が命じたら断れんだろ」
今もオリクトの意思を尊重しているだけだ。もし国王としての命令なら断るのは難しい。
そう、普通の、この世界の常識しか知らない女ならば。しかしオリクトには別の人生と経験がある。
「そうなったら、今すぐドルドンの部屋に突撃して彼をベッドに引き摺り込みます」
オリクトの笑顔に再び空気が固まった。いや、先程以上だろう。
ルプスは顔を青ざめ今にも卒倒しそうだ。ラゴスは頭が痛そうにうつむき、ウルペスとシルビラは開いた口が塞がらない。
この世界の常識からすればとんでもない爆弾発言。淑女の概念に唾を吐き捨て踏みにじるようなものだ。はしたないなんて生易しいものではない。
破廉恥なのだ。
(うわー。お母様倒れそう。でもまぁ、やらなくてよかった。男性経験無し四十年超えてるし。いくら婚約者とはいえちょっとハードル高いのよねぇ)
内心苦笑いをしながら混沌とした家族の様子を眺めていた。きっとこの光景もいつか笑い話になる日が来る。その場にはドルドンも一緒にいるだろう。
そう願っていた。
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