第6話 誰このイケメン?嫌いじゃないわ

「んん! 私は……」


「あなたには聞いていません。で、あなたのお名前は?」


 空気を読まない太っちょを一蹴。自信満々の笑みは一気に瓦解し呆然とする。そしてもう一人は自分だと気づき慌てて姿勢を正した。

 僅かに赤らめる頬。ギクシャクした立ち振舞。明らかに慣れていない緊張した息遣い。


「マグネシア伯爵家長男、ドルドン・マグネシア……とも、申します。お、お誕生日おめでとうございます殿下」


(か、可愛い。いーなぁ、こういうの…………マグネシア?)


 どこかで聞いた事のある家名。何だったかと記憶を辿る。


「おい! そんな汚い手を殿下に見せるな!」


「あ……」


 ドルドンの手は絆創膏まみれだった。確かにこういった傷だらけの手を目上の者に見せるなは良いとは言えない。ある意味このいけ好かないデブの言い分は正しい。

 しかしオリクトには違う。もっと別のモノを見ていた。


(思い出した。たしかあのウサギをくれた家だ。それにこの手の怪我……)


 頭の中でピースがはまるような感覚。この緊張でガチガチに固まった少年が視界を支配する。

 思わずドルドンの手を取ってしまった。


「!?」


 驚き一気に顔を沸騰させるドルドン。王族として問題行動だったが、オリクトも半ば無意識だ。


「もしかしてあのウサギ、あなたが作ったの?」


「は、はい。あの……魔法具職人の出でして。未熟者ながら、で殿下の贈り物を作らせていただきました」


「ふっ。平民みたいだな」


 鼻で笑う声。オリクトの額に青筋が浮かぶ。

 確かに手作りのプレゼントなんてお金の無い子供の常套手段。オリクトも前世ではやっていた事だ。さらに貴族なら親の金で用意するものだろう。

 しかしこの子は嫌いだ。嫌な貴族のテンプレのようで頭にくる。


「私はあなたの手が好きよ。私のために頑張ってくれた優しい手。努力している証よ」


「え……あ…………」


 ドルドンの顔が更に赤くなる一方で、オリクトの目は一気に冷やかなものとなる。


「醜いブタのようなお腹よりも、ね」


 この場にいる二人の少年が同時に真っ赤になる。両方とも羞恥心からくるものだが根幹が違う。称賛と侮蔑。何見言い返せないまま太った少年が立ち去る。


(ふん。ざまぁってとこね。それよりも……)


 オリクトは心の中で舌舐めずりをする。

 やはり異性に慣れていないのだろう。完全に沸騰しているドルドンが面白くなってきた。だがそれよりも彼の出自に興味が惹かれる。

 魔法具職人。もしかしたら利用価値があるかもしれない。プレゼントに貰ったティーセットもそうだが、魔法具は非常に便利な道具だ。この世界で文明の利器を作れる存在は大きな価値がある。勿論職人が国内にどれだけいるのか、質も量もわからない。何かしらの形で私的に使える職人を確保しておきたかった。

 辺り一面を木っ端微塵にする魔法も無い。一般的なイメージのチートが無いのなら、今持っているものを使うしかない。そう、知識だ。その知識を再現できれば、それこそチートと言える。


(前世の道具を再現したいし、職人を手元に置いておけると便利かも。少なくとも人脈は確保しておくべきね……って!)


 そこで今にも気絶しそうなドルドンに気づく。そして自分がいかにはしたない真似をしているのかもだ。

 前世を含め異性とまともに触れた事が無いのはオリクトも同じ。子供だからと意識していなかったが、流石に恥ずかしくなってくる。


「で、ではパーティーを楽しんでくだしゃいませ、オホホホ」


 焦って手を離し、裏返った声のまま急いでラゴスの所へ駆け出す。考えれば考えるほど恥ずかしくなっていく。子供相手に何をと思ったが、今の自分も子供だ。

 その途中でふとある事が頭を過る。


(あれ? 普通貴族が職人じゃなくて、職人を貴族が管理するものじゃなかったっけ?)


 何かがおかしい。もちろん地球と違うのだから貴族が個人で技術を保有している可能性も捨てきれない。

 心に残った違和感。その答えは歩む先にあった。

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