第4話 誕生日になりました あとイケメンは多い方が良い

 山。積み上げられたドレス、本に茶器。中には子供に送るものかとツッコミを入れたくなるような大きな宝石のネックレスまである。

 全部自分のもの。そう思うだけでオリクトは目眩がした。円で換算すればどんな金額になるのか想像もつかない。流石は王女といったとこだろう。見ているだけで恐怖に駆られる。

 彼女の周りでは侍女達がマムートの指示に従い忙しそうに駆け回っている。ここで手伝うの一言でも言えば主人公らしい振る舞いだ。


(けど、みんなの仕事を奪うのは良くないわ。手伝うのと奪うのは違う。社会人の常識ね)


 動き回らず黙って見ている。邪魔にならないのが一番の手伝いになるだろう。

 この服は派手過ぎて嫌だ。この本は気になる。そうやってプレゼントの山を吟味していると部屋に誰かが入ってくる。

 王女の部屋にノックも無く入る人物。そんな事をするのは数えるほどしかいない。


「ああオリー! 誕生日おめでとう!」


 勢いよく扉を開け、十代半ばの少年が入って来た。オリクトの兄、第一王子のラゴスである。

 シルビラに似た顔立ちをした金髪の少年だ。唯一違うのはエメラルドのような瞳だけ。姉の時も思ったが、はっきり言って自分と兄妹に見えない。それに公爵令嬢との婚約を破棄し高笑いしそうな面だ。まあ美形なので嫌ではない。


「ありがとうございますお兄様」


「ふふふ。今日のオリーは世界で一番美しいぞ」


「あら? では昨日は違うのですか?」


 イタズラっぽい笑みで仕返しだ。だが流石は王子。この程度ではびくともしない。


「残念だがシルビラと甲乙つけがたい。それに母上もいる。俺には難しい問題だ」


「……そうですか」


 愉快な程家族想いの好青年。顔とのギャップに脳がバグる。更にシスコンの気質もあるのか姉共々向けられる視線に少しだけ引く。

 シスコンなんて実際に向けられると気色悪さすら感じる。だが悪い気はしない。愛されているからだ。

 家族仲が良いに越したことはない。例え王族なんて陰謀渦巻く中であろうと、普通の家族のように想い合えるのは嬉しい。


「さてと、マムート」


「お呼びでしょうか殿下」


 速い。今さっきまで忙しそうにしていたのに、コンマ数秒で駆けつけている。有能なんてレベルではない。流石は王女の専属といったとこだろう。


「プレゼントの確認はすんだか?」


「抜かりなく。危険物はございません」


 そう、マムート達が行っていたのはプレゼントの安全チェックだ。日本では無縁だったが、王族故に敵対者から狙われる事もある。仕方ない事だが、改めて考えると恐ろしい。


「魔法具はあったか? 呪詛の診断は?」


「魔法具のプレゼントは二点です。サッソライト侯爵家から、炎魔法による保温機能付きのティーセット。それとマグネシア伯爵家からは……ウサギの水晶彫刻ですね。魔力を込めると光る、枕元用の明かりです。どちらも不信な点はありませんでした」


 テキパキとリストを確認。できる女はカッコいいものだ。マムートの仕事っぷりに他の侍女達も憧れの視線を向ける。

 ただ一人、オリクトだけは別だ。


(保温機能ねぇ。魔法瓶よりも良さそう)


 ラゴスの言っていた魔法具に夢中だった。日本人の記憶が戻ったオリクトからすればこの世界の文明レベルは低い。はっきり言って不便だ。

 魔法具。人間の持つ生体エネルギー、魔力を動力に動く魔法の道具。この世界に魔法はあるが、アニメのように手から炎を出したりする事はできない。

 あくまで道具にエネルギーを与え動かせるだけだ。王宮の明かりも使用人達がバッテリー代わりとなり点灯している状況。しかし人間が電力となる家電製品。それの価値が低いはずがない。むしろ前世の知識を活かし開発者となれば……。

 知識チート無双。この世界の産業革命を起こし生活水準を上げれるかもしれない。

 考えているとラゴスが覗き込む。


「どうしたオリー? 何か気になるプレゼントがあるのかい?」


 顔が近い。悪人面だが美形。そんなイケメンが近づいてはオリクトも一瞬言葉につまる。

 こちとら年齢イコール彼氏いない歴。いくら今は実の兄とはいえ照れる。


「ま、魔法具に興味があって」


「魔法具か。なら、こっちの方が可愛いだろ」


 そう言って水晶ウサギを手渡す。手のひらサイズの丸まったウサギの彫刻。白濁水晶を削った見事な彫刻だ。しかし保温機能に比べると芸術的な価値に傾向しているこれの興味は薄い。


「確かに……可愛いです」


 よく見ると綺麗な彫刻だ。細かく丁寧に彫られているのが解る。こんな世界だ。機械に頼らず手作業なのだろう。妙に惹かれる感覚がある。


「マムート、これ私の寝室に置いておいて」


「承知しました。それと、そろそろお時間です」


 マムートに預け窓の外を見る。そう、パーティー開始の時間だ。外では既に招待客が集まっている。主役の登場を今かと待っているのだ。


「さっ、行こうか。お姫様」


 そっと差し伸べられる兄の手。悪人面の実兄、なんて余計な属性があるも美形の王子様からエスコートされるなんて乙女の夢だ。


(いやー、王女ってだけでチートだわ。聖女だとか主人公補正とか蛇足よ。地位とお金にイケメン兄に美少女姉!)


 何よりも温かく愛してくれる家族。それが最高の贈り物だった。

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