3.基地司令

 バトラムント共和国連邦 トルニドス州

 サハー航空軍基地

 幹部兵舎


 憲兵隊のシーベルスター中佐に連れられながら、基地司令の元へ行った。我々が生活していた一般兵舎はさっぱり生活感がない感じだったが、幹部兵舎ともなれば装飾されていた。装飾と言っても派手では無いのだが。部屋の表札には基地司令執務室と書かれていた。ここで基地司令は執務をしていると言う。中佐は戸を叩いて声をかけた。


「司令、大日本帝国海軍軍人3名連れてまいりました。」

「入れ。」


 基地司令は茶色の軍服に身を包み、胸には航空軍の金色のウイングマークと略綬がズラっと並び、背は高く、浅黒く、筋骨隆々の"猛将"とも言うべき姿をしていた。司令は執務机に座り書類仕事をしていたようだが、我々を見るなり席を外し、目の前まできた。司令は歯を見せながら口を開いた。


「ようこそおいで下さった。連邦航空軍のゲストさん。私は当基地司令のホードンだ。よろしく。話は聞いたぞ、さぞ大変だったな。」


 ホードンと名乗った。正しくはホードン・カリストス・タンダールJr.。航空軍少将。第2航空軍の中核基地であるサハー基地を纏めている。中でもサハー航空軍基地は猛者揃いの集まりだったので、色々手を焼いているという。もともとは航空魔導師だったが、自身の魔素の減少に伴い、指揮官としての道を歩んだ。いわゆる叩き上げの将官だ。太めの葉巻に火をつけてふかしながら話し始めた。


「大日本帝国か……聞かぬ国名だったが、まさか連邦にやってくるとは、夢にも思わないな。」

「我々もびっくりしました。気が狂ったか思いました。」

「これからはどうする?」

「帝国海軍はあの閃光の中に消えてしまった。家族も、戦友も、何もかも。でもに拾われた命。身命を賭して連邦に忠義を尽す所存であります。」

「軍人というより、戦士を見ている気がしてきたな。さぞや訓練や戦闘も熾烈を極めてきたのだろう?」

「そうですね。きついといえばそれで終わり死亡ですが、我々は生きる為に乗り越えてきたのです。」

「なるほどな、話はわかった。こちらで永住権の申請を出す。入隊ということで間違いはないんだな?」

「よろしくお願いします。」

「それと、ゼロセンとか言った戦闘機、零式艦上戦闘機はこれから空技工廠へ移動する。工廠には既に一機だけ移動してある。不時着したナシダ機だ。ナガサワ、タカベはアフシャーブの工廠まで飛んでいってもらう。飛行許可は取ってるので安心して飛んでいい。それでいいか?」

「はい。よろしくお願いします。」


 ホードン司令と会談した後、基地幹部と地上管制士官と防空管制士官、選抜された整備兵による打ち合わせブリーフィングが行われた。航空軍における地上管制とのやり取りの仕方や零戦に搭載されていた従来の無線機九六式空1号無線電話機と航法装置の変更、簡易電探の操作方法や空路の選定と万が一現れるであろう空賊について詳しく教えて貰いつつ、零戦の始動方法や気をつけるべき点等を教授した。整備兵は我々を信用しているようなしていないような顔をしつつ懸命にメモを取り、零戦の前で慣熟訓練…と言っても付焼刃ではあるが始動できる状態まで学んでいた。長澤と高部は副司令に休息をとるように言われたので長澤と高部は用意された部屋に泊まることに。梨子田は本日中に自動車で工廠へ向かうことにした。どうやらホードン司令も見学するので憲兵と一緒なのだそうだ。

 次の日、自室で長澤と高部は貸与された服から日本海軍の航空衣袴へ着替えた。飛行帽を被り、救命胴衣、縛帯を身につけた。縛帯に落下傘が着けられた。零戦の近くまで歩いて見ると、機体の胴体部に整備兵が着いていた。機付の整備兵だろう。整備兵は長澤と高部に気が付くと敬礼をした。もちろん2人は日本海軍式ではあるが、答礼した。整備兵によればエンジン等は問題なく動くようだ。2人は空路を確認し、駐機場に停められていた零戦に近寄り、手掛けと足掛けを出す。整備兵に乗り込んだら手掛けと足掛けは仕舞っておくようにと伝えた。改めて座席に座る。いつぞやぶりの零戦。やはりは日本なんだと思った。落下増槽はないが、翼内燃料タンク全て含めて525リットル入る。整備兵は搭載した航空燃料について、525立満タンです。と伝えた。座席横にある受けに落下傘の曳索環を取り付け、整備兵は座席のベルトをグッと締めた。整備兵は零戦から降り、手掛けと足掛けを仕舞った。1度電源のスイッチを入れ、計器類が動作していことを確認し、補助翼、昇降舵、方向舵が動くことを確認し、操縦桿を後ろに引いた。手動燃料ポンプを動かし、燃料を注入。燃料注入の合図を出すと整備兵は手でプロペラを回し始めた。電源スイッチを入れたことを整備員に伝え、プロペラピッチを低くし、混合比を最濃にした。カウルフラップを全開にしつつ電気関係のスイッチを操作した。周りに人がいないことをぐるっと確認し、イナーシャ回せと合図を出し、整備員はエナーシャハンドルを装着し、回し始めた。甲高いエナーシャーの音を聞き、コンタクト!と叫ぶ。整備兵が離れたこと、プロペラが回り始めたのを確認し、エナーシャースターターレバーを引いた。エンジンはバリバリと音を立てて唸るように始動した。ベルト・落下傘と飛行服が繋がっていることを確認し、油圧・電圧計と排気温度を見たところ良好だった。コンパスも同調させ、準備は整った。ちなみに従来の96式空1号無線電話機は取り外され、小型魔導送受信機3型が取り付けられていた。 通信距離は対機70浬、対地180浬まで使用可能。また、別に無線帰投方位測定機クルシーも送受信機による機能としてつけられていたためその分軽くなっている。そして1番ありがたいと思ったのは簡易電探、つまるところレーダーなのである。自機がどこに飛んでいるか、敵が何処から向かってくるのかが判別できるので非常に有難かった。そうこうしてるうちに地上管制から通信が届く。女性の管制士官だった。


「ナガサワ・タカベに告ぐ。周波数は188.584を使用してください。コールサインはそれぞれの名字とします。風速0.5m、風向は南西。ランウェイオールグリーン。お気をつけて。」

「こちらナガサワ了解した。離陸する。」

「同じくタカベ了解。以上」




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