第12話

期末試験も終わり、美羽はランクを落としたものの、それでも2位に止まっていた。



あと数日で卒業式予行があるという日

「ちょっと風邪をひいたので休ませます。よろしくお願いします」

美羽の家から連絡があった。


「と言うことで二宮は数日休むから」


ざわつく教室。

「自業自得よね」

「ざまぁ案件よ」

「風邪ってウソかもよ」

「もう来なくていいよな」


冷たいクラスメイトの中に有ってギャルたちは別の感情を持っていた。

「彩夏、美沙、玲実も放課後時間ある?」

「ある」

「美羽の様子を見に行こうと思うんだが」

「いいよ時間あるし」

「でもさ、連絡できたの?」

「LINEは既読ついてるから、見ているとは思う」

「今日行くとか?」

「うん」

「じゃあ、行こうか」


美羽の家を探すギャル4人組

「確かこの辺だと思うんだけどなぁ」

大きな屋敷や高級な住宅が並ぶ静かな住宅街の一角に美羽の家はある。


「ここだ、でけぇなぁ・・・」

余りの大きさに絶句する4人組。


チャイムを鳴らす優花

「はい!あっ!優花!今行くね」

と風邪とは思えない元気な美羽が歩いてきた。


門を開けると「どうぞ!」

開けられた門から家までが長い・・・生粋のお嬢さまなんだと実感するギャルたち。

その出で立ちとお屋敷のアンバランスに自ら笑い出してしまっていた。



「いらしゃいませ」と執事のような人物に迎えられる。



「こちらへ」と招かれた部屋は美羽が使っているようだ。

「あらぁ~~~広い部屋ねぇ」

「どこでもいいから座って!」と美羽は言うけど、高級そうな絨毯の上に座るのを

躊躇しているギャルたちだが、結局その上に座っている。


「いらっしゃい。いつも美羽がお世話になっていて有難うございます」

和装の婦人が御茶菓子をもって入って来た。「ママよ」

「おじゃましてます」


「風邪ひいたんじゃねえのかよ」

「えっ?誰が風邪?」

「お前だよ!」

「風邪なんか引いてないよ。おそらく執事の髙橋が気を使って言ったんでしょ」

「執事・・・」

「両親は何か言ってないの?」

「パパは海外の会社に赴任したの最近ね。社長として。しばらく帰ってこないし。

 ママは常に家にいるけど、お花の師匠だからいつも習いに来ている人がいるし

 結構忙しいからね。私も18歳だし自分のことは自分でやりなさいって

 ママから言われているし」



「来週は学校行くから」

「そう、大丈夫かよ。あの連中結構しつこいよ」

「解ってる、こうなったのも自分の所為だしね、結果は結果として受け入れないと」

美羽の目は、何か覚悟を持った人間の光の様なものを見て取った優花たち。


それは、18歳の女子高校生のそれではなく、

一人の強固な意志をもった女性のそれだった。

「私は、もう逃げないよ」

「そっか、ちゃんと覚悟を持っているのなら、ウチらは何も言わない。

 だけど何か困ったら言ってくれ。サポートする。玲実も彩夏も美沙もいいだろ!」

「もちのろんよ」

「困った時に助けるのが真の友人だし」

「ありがとう」美羽は泣いていた・・・


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明日は卒業式予行だという月曜日

「おはよう!」

「おっ!美羽!おはよう!」

お嬢さまグループの方ではなく、優花たちギャル仲間のもとへ走る美羽。

「いいの?あっち行かなくて?」

「いいよ、もう友達でもなんでもないし」


お嬢さまグループからシカとされている以上、そちらに行く必要もない。


朝のHRが始まるから、自分の席に移動しようとしたとき、

誰かが足を出して美羽を転ばせた。「痛い!なにすんのよ!」

と言ったが周りの生徒はニヤニヤするばかりで何も言わない。


(美羽・・・大丈夫か?)

ギャルたちは美羽を心底心配している。


「よーし、ホームルーム始めるぞ!席に座れ」

「起立!礼!着席」



と、その時。


「先生!さっき二宮さんが誰かに転ばされました!」

「そうなのか?浅野。そんなことをする奴は誰だ!」

シーンと静まり返る教室

「またこのようなことが有れば二宮さんが、怪我をするだけだと思います!

 だから、二宮さんの席を代えた方が良いと思います!」

「どこへ?」

「ここ優花の後ろに」


提案した浅野というのはクラスの中では陰キャで通っている浅野葵という女子だ。

「ここならそう言うこともないと思うので」

浅野葵は、美羽が怪我をすることは卒業を前にマズいと思ったらしく

「あれはイジメですよ」と後で美羽に話していたらしいのだ。


「二宮、それでいいか?」

「はい」



卒業までの数日

美羽はギャル仲間と楽しそうに過ごしている、笑顔も戻っていた。

それは以前の様なアルカイックスマイルではなく、口を開けで大笑いするそれだ。

「あんた、よく笑うね」

「そう?本当はこういうの大好きよ。葵もそうでしょ?」

「え、ええ、まぁ、そっかなぁ・・・」


予行も無事終わり。

「ねぇみんなさぁ、放課後付き合ってほしいところあるんだけど」と美羽

「どこいくのさ」

「美容院」

「なにすんの?」

「染めるのよ、当たり前じゃん!」

「ウチらみたいに?」

「そうだけど、何か問題でも?」



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「おはよう、優花」

そこに立っていたのは、金髪ロングでブルーのメッシュをいれて、黒いシュシュで

まとめてアップに、両耳のピアスが複数はっきり見えている。

そしてばっちりメイク、スカートは中が丸見えレベルの短さにして、ルーズソックスをはいた美羽がいた。


(いやぁやっぱ、綺麗だわ、ばっちりメイクすると)


優花やギャル仲間をまさに "従えて” 校内を闊歩する美羽を

すれ違う生徒たちは唖然として見ているし、あまりの美しさに見惚れる生徒もいた。


「おはよう!」

教室へ入ると、クラスメイトの異常なざわつきが、はっきりと見て取れた。


颯爽と教室へ入り、自分の席に着く。

ギャル仲間の彩夏と美沙が「やっぱ元がいいから、似合うわぁ」

「うらやましいなぁ、ウチも美羽みたいな顔に生まれたかったわぁ」

「そうかなぁ・・・美沙も可愛いと思うよ」


そこへやって来たのは、お嬢さまグループの一人大森玲子だ。


「美羽!あんたは私たちの憧れだったのよ、それをこんな形で裏切って!

 あんた、自分がどれだけの事したか解ってんの?どんだけの生徒があんたの行為で

 傷ついたか!」


それは違うと優花が立ち上がろうとした、その時

「傷ついた?はぁ??よく言うわ。

 あんたらこそ、私を勝手に偶像化して、お嬢さまのレッテルを貼ったっしょ?

 私の本当の姿を知ろうともしないで、お嬢さまだと決めつけて、そのレッテルを

 いつも剝がそうと私はもがいていたのよ!!そんな気持ちも知らないで、

 よくそんなこと言えるわね!!!!」


元・隊長の野中が言う

「良いじゃないか大森、こいつの真の姿を知れただけでも良かったんじゃない?」

「お前は、もう自由にしろ。俺たちはもう関わらないし無視するだけだ」


美沙が何か言おうとしたとき立ち上がったのは葵だ。

「真の姿を知れた?そういうお前の真の姿はなんなんだよ!えっ!言ってみろ!」

思いがけない反撃を受けて野中は狼狽えた

「え、何だお前!こいつの肩を持つのか?」

「話をすり替えるな!お前は自分の思っている美羽の姿を、そのままにしたいだけ

 そうだろ?美羽は本当は変わりたかったんだ、お嬢さまのレッテルを剝がしたい! 

 美羽は本当はお嬢様でもなんでもない、ただのいろんな事に興味を持つ女子高生で

 居たかったんだ。それなのにお前たちの縛りが・・・」

最後の方は泣き声ではっきりとは聞き取れなかったが、

葵が自分の意見をハッキリ言うことができる子だと判った。


「葵、ありがとね」

「そう、私はね、もっと女子高校生を楽しみたかったんだよ。

 優花や彩夏、美沙みたいに。それに葵もね。長い人生のうち高校生でいられるのは

 ほんの僅か。女子なら進学して恋愛して結婚して、子供が生まれ、その子供を育て 

 そう考えると、自由にできる期間なんてわずかな時間よ。

 それを楽しんで何が悪いの?貼り付けられたレッテルを剥がして、もっと自由に

 高校生活を過ごしたい!誰だってそう思うでしょ?玲子!そして野中も。

 そう思わないの?

 あなたたちは私に "お嬢さま" っていう強固な鎖でがんじがらめにして

 自分自身を安心させていただけよ!!!」

「私はもっと自由に生きたい!短い高校生活ならもっと自由に楽しみたい!恋愛も 

 ファッションも、もっと楽しみたかった・・・それなのに・・・それなのに」



優花も彩夏も美沙も、葵も

美羽の告白を聞いて泣いていた・・・

彼女はもっと自由になりたかった、JKを楽しみたかった。ただそれだけなのに。

もっと、もっとしてやれなかった気持ちが、心の底から湧いてきていた。


「美羽、ごめんね。もっと早くあなたの気持ちが解っていれば・・・」

優花は美羽に抱き着いて泣きじゃくる。

「いいのよ優花、あなたは私を変えてくれた。それだけで私には十分よ、優花」

美沙も彩夏も抱き着いて泣いていた。

一人、葵はベランダに出て泣いている。



「すまない二宮。キミの気持ちも知らずに・・・」

野中は土下座して謝っている「いいよ、もう終わったことだしね」



「美羽・・・」

お嬢さまグループの№2だった大森玲子も数名が寄って来た。

「ごめんなさい、私たちも、あなたの気持ちに寄り添えなくて」

「いいよ、もう済んだこと。卒業式まで日もないし、解ってくれればそれでいいよ」



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卒業式

「卒業生代表、二宮美羽」

答辞を読み上げる美羽の姿は、ギャルのまま。


担任からは髪色を戻せと言ってきた。しかし校則には髪色について何も書いてないし

校長先生が「いいじゃないですか。わが校は個性を大事にすることを校是としてますし。何も問題はありませんよ。二宮くん答辞よろしく頼むよ」




式が終わり、教室へ戻り担任からの話が終ると、

ついにこの教室、学校からはおさらばだ。


もう嫌がらせを受けることもない。


「じゃあ撮るよ!」

クラス全員で写真を撮る。その中心にはギャルピースで満面の笑顔の美羽がいた。



「寂しいね、美羽」

「うん、でもこれからの人生は長いし、それをこれからは考えながら過ごすことね」

「美羽はすごいよね、自分をしっかり持っている、自分の意見をはっきり言える

 それだけでも尊敬に値すると思うな」

「そうかなぁ」

「そうだよ。大学行ったらどうするの?実家から?」

「いや、東京で一人暮らしよ」

「そうか、美羽とお別れするのはイヤだなぁ」

「大丈夫よ、LINEあるでしょ?これで繋がっているし、いつでも連絡して」



別れ際

「優花さま、キスしてもよろしいですか」

「いいよ!」


つぼみが膨らみ始めた桜の木の下で、二人抱き合ってキス。

遠目で美沙や彩夏、葵も見ている中・・・



「じゃあね、優花さま」

「美羽!がんばれよ!いつまでもお前の友達だ!」


互いに手を振り、別れて行った。




さようならみんな!

元気でまた会おうね!!



完結

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お嬢さまは百合が好き 利根川藤代 @83012086

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