第三話 夏が遺したもの
地上より憎しみを込めて
幸か不幸か、夏の断末魔は地上へ届いていた。
地上には、実に二千年ぶりとなる預言者が誕生した。どうやら夏は、受取人を人間とする生命保険を掛けていたようだった。
きっと彼は、いつかこうなることを知っていたのだろう。
預言者のカリスマ性は絶大なものだった。年に世界人口の3割が亡くなり、日々国々が消えたり産まれたりしている。人類史でも例をみない苛烈を極めた戦国の世だったが、彼が訪れる先々では全ての争いが止まった。
「夏を殺した者がいる」
モーゼと異なり、別に空も海も割れたりしない。それでも、こんな馬鹿げた話を、彼は丸腰でまじめに語った。実際、夏は死んでいるので嘘ではないのだが……。
こうして、血で血を洗う戦乱の世は終わり、ゆうに百を超えていた国々は途端に一つになった。より大きな憎しみを理由に、人類は団結した。宗教や民族、肌の色の違いを起因とする争いは過去のものとなった。
別に夏が無くなることによる損害は、人間にとっては大したことではない。数百の動植物が滅び、少しの異常気象が起こるくらいだ。人間の業の深さは、そんな程度では終わらない。
きっと、理由が欲しかっただけなのだ。
預言者はたちまち勇者となった。勇者という言葉を現実で使う時が来ることに、彼自身が戸惑っていたが、他に似合う称号など無かった。そして、人々はラグナロクに備え始めた。
『神への憎しみ』
それだけを燃料にして、彼らは本気で夏を取り戻そうとしていた。凡人たちはそのために昼夜返上で考え続けた。凡人は何人いたって良い。何人死んだって良い。人類はやっと産まれた意味を見つけたのだから。その目的のためならば、犠牲すら美しい。
そんな人類の大いなる憎しみは、天空を突き破らんばかりに膨れ上がっていた。
その光景を見て、夏だけが微笑んでいた。
独り言
しかし不思議なものだ。二千年前の預言者を最後に、
語り部 逾樔ク
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