第二話 春「 」秋 冬

「じゃあ、夏よバイバイ! また来世で会おうね」


 最高気温を更新しながら、夏は死んだ。辺りは焼け焦げてしまって、本当に迷惑だった。全てのせみを一つに集めたかのような、鋭く甲高かんだかい悲鳴を上げながら、夏は死んだ。その声は本当にうるさくて、地上にも届くんじゃないかと思ったよ。


 さて、この夏の死体に、どんな季節を入れようか。もうあんなにも暑い季節はこりごりだしなあ。もう少し涼しくして、でも夏の爽やかさは唯一無二だったから──


(別に僕は神じゃなければ悪魔でもないから、季節がなぜあるのかは知らない。でも、どうしてか、季節を編集する能力は持っていた)


 そうだ。??なんてどうだろう。

 ……うん! いい名前じゃないか!? 我ながら、結構良いセンスしてるな。夏の暑さを弱めながらも、独特の爽やかさがある。これは、むしろ夏よりも良い物が出来たな。季節の作成者には悪いが、やはり若者の方がセンスはあるな。


 ……


 ただ、これをどこに入れ込もうか。もう何時間も考えているが、答えが出ない。春の後は夏を消した意味が無くなるから論外。秋の後は冬への緩急さがありすぎて情緒が無い。冬の後に入れると、なんだか春が下位互換に思えてしまうし……。

 季節を考えるよりも、順番の方が大事なように思えるな。そう考えると、従来の四季は完璧に近いものだったかもしれない。

 ……まあ、悩んだところで決まる物でもないし、ダーツでもして決めようか。僕はね、地上のテレビ番組「笑ってコラえて!」のダーツの旅が本当に好きでね、いつか僕もあんな風にダーツで物事を決めたかったんだ。良い機会を貰ったと思って、運に季節を任せてみようか。

 ダーツの矢を右手に持ち、体を若干横向きに構える。ダーツなんて習ったことが無いから、姿勢があっているのか不安になる。まあ、的に当たれば何でも良いか。……ああ、いざ投げるってなると、手が震える。


「これで季節が決まってしまうんだ」


 武者震いは、内臓までをも揺らす。なんて心地が良い。

 肘を固定する。目を閉じて、ゆっくりと息を吸って、吐く。目を開ける。一瞬の視界のぼやけを経て、的へピントが合う。その瞬間を逃さず、円を描くように矢を放つ。

 ダーツが刺さった箇所は──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る